副会長の回想
火曜日の放課後、アスカを除く生徒会役員は靖幸のパソコン画面に釘づけになっていた。
宿泊学習の部屋割が職員から送られてきたのだ。
「僕知らない子と一緒だぁ……。陸は?」
「親衛隊の奴とだ。うぜェ」
生徒の自主性を強調する鳴鈴学園では珍しく、宿泊学習の二人部屋の部屋割は職員が決定する。
何年か前に人気の生徒との部屋が売買される事件があり、再発を防ぐためそうなった。
「慎一」
靖幸が微笑を浮かべながら慎一に視線をやった。
「お前、未鷺と同室」
慎一は靖幸につられるように画面を見、自分の名前と未鷺の名前が隣り合っていることを確認した。
気が重くなるほど嫌ではない。
しかし嬉しくもない。
どうせなら扱い易い生徒が良かった。
慎一は従順で美しい顔立ちの者が好みだった。
学園内で遊んだ相手はほとんどがそうだ。
菖蒲未鷺は見た目だけ考えたら――もし彼が従順に脚を開きねだるとしたら――喜んで抱きたいと思えるが、実際の彼の性格を考えるとそうはならない。
抱こうとしたところで撃退された後、処罰されるのがオチだ。
慎一と未鷺との出会いは10年にも前に遡る。
小学部の友人で親同士も仲が良かった靖幸と、彼の家が経営するホテルで行われたパーティーに出席した時のことだ。
「君達と同じ年の菖蒲未鷺君だよ。会うのは初めてかな」
挨拶しておいで、と近くにいた大人に急かされて近付いた。
可愛い、というのが最初の印象だった。
高校生ぐらいの兄の隣を大人しくついてまわっている、色白で、綺麗な瞳の色をした、華奢な少年。
何も言われていなければ女の子と思ったかもしれない。
「こんにちは」
少し緊張しながら言ったのをおぼえている。
「……こんにちは」
未鷺は兄に少し隠れるようにして、小さな声で返してきた。
友達になれるかな、とこのときの慎一は考えていたのだが。
ぐっ、と靖幸が未鷺の手首を掴んで引き寄せた。
そして何かを耳打ちする。
言われた未鷺は訳のわからないといった顔をして逃げるように彼の親のところへ走って行ってしまった。
靖幸は満足そうに不敵な笑みを浮かべていた。
それから何度かパーティーなどで顔を合わせることはあったが未鷺は靖幸を避けていたため、慎一とも話すことはなかった。
中等部で未鷺が入学してきても、二年生の十月に生徒会役員に選出されるまで会話をしなかった。
その上、未鷺が副会長で慎一が会計になった事実は、慎一のプライドを傷付けた。
小学部では靖幸に続く二番は慎一の席だったのだ。
その席に未鷺が座った。
慎一に未鷺に対する苦手意識を植え付ける出来事だった。
未鷺が生徒会に入るのを避けるようにして風紀委員になった今、慎一は副会長の地位にいる。
慎一が靖幸を一瞥すると、目が合った。
「何だ?」
「何でもないよ」
靖幸の真意はとてもわかりそうになかった。
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