電話
未鷺が部屋に戻って携帯のマナーモードを解除するとすぐ、着信音が鳴った。
元秋からだ。
「何だ」
『未鷺が出てくれんの珍しいな。今大丈夫か』
「ああ。ちょうどお前に電話しようと思ったところだ。話がある」
『俺に話って何だよ』
「お前がかけてきたんだ。先に用件を言え」
個室の椅子に座りながら未鷺が言うと、元秋は決まり悪そうに話し出した。
『今週テストだって忘れてて少しやばいんだよ。お前の余裕があったら勉強教えてほしいと思ってな』
「馬鹿者。普段から予習復習を怠らなければそのようなことにならなかった」
『もうなっちまったんだから仕方ねえだろ。暇なとき俺の部屋に来てくれよ』
未鷺はテスト勉強などしなくても普段の積み重ねでいつも学年上位に入っている。
元秋に教えることも嫌ではないが、問題は場所だ。
「断る」
『今忙しいのか?』
「そうではない」
元秋の部屋に行けばおのずと野原と顔を合わせることになる。
キスの場面を見られたのは未鷺にとって恥ずかし過ぎる出来事で、野原と顔を合わせるのは出来る限り避けたかった。
「何の教科に不安がある」
『英語と古典。文系苦手なんだよ』
「そうか。今夜12時半過ぎ部屋の郵便受けを見ろ」
『……?ああ』
元秋は不思議そうに返事した。
『お前の話ってなんだ?』
「いや、いい。何でもない話だ」
未鷺は元秋に風紀委員補助になることを薦めようとしていたが、元秋が勉強におわれている時にする話ではないと判断した。
『テスト終わったら会いに行くぜ』
「好きにしろ」
言い終えると未鷺は電話を切った。
元秋は特待生だからこの学園に通えていると言っていた。
それなら勉強くらいしっかりやれ、と思いながら未鷺は紙にペンを走らせた。
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