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良い意見


放課後、風紀委員室は机が正方形を描くように並べられ、皆が中心に向かって座った。

佐助がいないことを除けばお馴染みの面子が揃っている。
司会は二年代表の未鷺だ。

「これより、宿泊学習時の風紀について会議を行う」

未鷺が言い終わるのとほぼ同時に部屋のドアが開いた。

「久しぶりですね」

驚く委員達を尻目に空いている席に腰掛けたのは、風紀委員長の沢野忍だった。

「なんでしたっけ。二年生の宿泊学習の話ですね?」

隣の委員に確認してから忍は咳ばらいして、口を開いた。

「では改めまして、宿泊学習中の風紀について、話し合いを行います。菖蒲君、これまでの決定事項を言ってくれますか」
「……はい。宿泊学習中、二年生は防犯ブザーの貸し出しと消灯時間前のホテル各部屋の巡回を行います。学園に残る一年生と三年生は、三年生を中心に通常と同様の活動を徹底します」
「なるほど。他に何か提案はありますか」

忍はぐるりと委員を見回す。
誰の挙手もないのを確認すると、忍自身が発言する。

「僕は宿泊学習中に一般生徒から募集した風紀委員補助を活動させることを提案します。現在、風紀委員には近寄り難いイメージがあります。一般生徒と風紀委員が交流することで風紀への理解が高まり、生徒の協力を得やすくなります」
「補助の活動内容は」
「風紀委員の活動の手伝いです。各部屋の巡回にしても委員だけだと時間がかかります。人手は多い方が良いでしょう」

未鷺の質問にすらすらと答えた忍は更に続ける。

「補助の条件は風紀委員よりやや緩めて、『罰則を受けたことが二回以下、体力に自身がある者』とします」

忍の話を聞きながら、未鷺の頭には元秋の顔が浮かんだ。
元秋は先週の出校停止処分は一回目で、体力は申し分ない。

「この提案に賛成の人は挙手して下さい」

忍が言うと一見してわかるほど多数が手を挙げた。
かくして風紀委員補助が宿泊学習を含む一週間、活動することが決定した。




他にも幾つかの案が通り、問題なく会議は終了した。
未鷺が忍に視線をやると、ちょうど目が合った。

「お疲れ様です」
「菖蒲君が僕に敬語使うなんて珍しいですね」
「委員長が仕事をされたので」

極端な未鷺に忍はこっそりと笑った。

「風紀委員補助に応募する生徒はいるでしょうか」
「いると思いますよ。菖蒲君とお近づきになりたいと思っている生徒は菖蒲君が思ってるより多いですから」
「委員長……」

未鷺は忍を見上げながら眉を寄せる。

「何です、菖蒲君」
「真剣な話をしている最中です。腰を撫でるのを止めて下さい」

忍の手首を捻りあげ、未鷺は淡々と言う。

「いつなら撫でて良いですか?」
「いつ何時でも止めて下さい」

解放された手首を片手で摩りながら尋ねる忍から未鷺は数歩離れた。

「さて、補助の話も通って僕の仕事が少なくなることが決定したし、帰るとしますね」
「……目的はそれだったか」
「ではまたー」

未鷺の視線が鋭くなるのを楽しげに見て忍は走り去った。

残された未鷺はそれでも忍の案は良かった、と思った。
もし元秋が風紀委員補助になることを承諾すれば、と考えると頬が緩みそうになる。

部屋に戻ったら元秋に電話しようと決めた。

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あきゅろす。
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