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風紀委員

翌朝目覚めると、未鷺は着替えて顔を洗い髪を結び、授業の用意をしたかばんを持って風紀委員室に向かった。

低血圧の或人は朝早く起きれない。
それを知ってから未鷺は早めに部屋を出ることにしていた。

風紀委員室は寮の隣の校舎の4階にある。
中には既に一人の委員がいた。

「おはようございます。菖蒲さん」
「おはよう」

未鷺に気付いた一年が明るく挨拶してきた。
彼は中等部のときから知り合いで、未鷺を追うように風紀に入った樋上佐助(ひがみさすけ)だ。
赤っぽい茶髪で長身のこの一年はなぜか未鷺に懐いていた。

「購買での万引きの件、目撃情報纏めときましたよ。それと屋上でタバコ吸ってた生徒の件は生徒会に報告しておきました」
「そうか」

滅多に未鷺は佐助を褒めないが、佐助は未鷺が自分以上の仕事をしているのを知っているため文句はない。
一緒に働けるだけで嬉しいのだ。

「そうだ。朝ごはんにしましょう。食べないと頭も働きませんからね」

佐助はあらかじめ作っていた味噌汁を火にかける。
風紀委員室には簡易キッチンから簡易ベッドまであった。

「はい、どうぞ」

テーブルの上に質素な和食が二人分並んだ。
朝は食欲がない未鷺のために佐助が作ったメニューだ。

「いつもすまない」
「いいんすよ。一人で食べるより美味しいっすもん」

未鷺は全く料理をしたことがなかったので料理が出来る佐助をすごいと思っていた。

「そういえば委員長が今日の委員長会議欠席するって言ってましたよ」
「引きずり出せ」
「そうしたいんすけど居場所が不明で。メール寄越してからこっちが返しても返信してこないんすよ」

風紀委員長は仕事をしなかった。
有名になって親衛隊を増やすのが目的で風紀に入ったという。
実際顔が良く人気もあるのだが、委員長がやらない仕事は二年のトップである未鷺に回ってくるのだ。
神経質だった副委員長は仕事量に耐え兼ねて胃炎になり入院している。

「仕方ない。俺が出席する」
「大丈夫ですか?」
「大事ない。近頃は一年生に対する強姦や各親衛隊の小競り合いも落ち着いている」
「そうじゃなくて……」

佐助はおずおずと未鷺を見た。

「竜ヶ崎のことか」

竜ヶ崎靖幸(りゅうがさきやすゆき)は生徒会長だった。
去年の十月、一年生としては異例の生徒会長に抜擢されている。
滅多にいない美形で家柄も学園で一番の完璧な男だ。

「私事は仕事に持ち込まない」

未鷺は靖幸を嫌っていた。
菖蒲家と竜ヶ崎家が競い合っていた十年近く前からお互いを知っていたが、靖幸を好きになったことは一度もなかった。

「そうっすか。気をつけてくださいね」

佐助は心配そうに言うと空いた皿を片付け始めた。

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あきゅろす。
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