VS風紀委員長
佐助に頼れないとなると、未鷺の食事は購買で買ったおにぎりばかりになる。
食堂へ行くのは生徒達の視線が煩わしくて好きではない。
一年生の頃はそれでも我慢していたのだが、佐助との静かな食事に慣れてしまっていた。
やはり料理を覚えなければ、と考えながら未鷺は昼休みの廊下を歩いていた。
おにぎりが入ったビニール袋を提げて風紀委員室に戻る途中である。
「じゃあ今度海に行きましょうよ」
「えー忍先輩いつも約束守ってくれないじゃないですかぁ」
前方の角からいちゃつく声が聞こえる。
それだけならこの学園では決して珍しくないことだが、問題はその一方の声の主だ。
未鷺は足を止めて彼らが現れるのを待った。
「夏休みに免許を取るので取れたらどこにでも連れてってあげ……」
喋っていた男は未鷺に出くわすと一瞬停止したが、すぐに回れ右をして駆け出そうとする。。
しかし彼が逃げるのより未鷺が一歩踏み込んで彼の手首を掴むのが先だった。
「委員長」
「は、はーい。菖蒲君」
未鷺の鋭い視線で射抜かれて、苦笑いを浮かべたのは、名ばかりの風紀委員長、沢野忍(さわのしのぶ)だった。
パーマがかかった黒髪に、黒縁眼鏡と泣きボクロ、小麦色の肌が特徴的な美形である。
「今日の放課後に宿泊学習の件で風紀委員で会議がある。お前が委員長なら出席していただく」
忍は三年生で先輩だが、未鷺は忍に敬意を表する気がないので敬語を使っていない。
礼儀正しい未鷺にとって唯一の例外である。
「今日ですか。体調が悪いので欠席します」
「会議に出席してからならいくらでも体調を崩せ」
「菖蒲君……相変わらず僕には言いますね」
言いながら忍は逃げ出す隙を狙っている。
未鷺は忍の手首を掴んだまま彼の正面に回った。
「会議は5時からだ。絶対に来い」
「……めんどくせ」
「何だと」
未鷺は眉根を寄せ、一歩忍に近付いた。
「積極的ですね、菖蒲君」
にやっと笑った忍は掴まれていない方の手で未鷺の尻を揉んだ。
「なっ……!」
突然の感覚に驚いた未鷺は手を放して後退る。
「また今度ー」
忍はその隙をついて全速力で廊下を駆け抜けて行った。
後を追おうとしたが、元来真面目な未鷺は廊下を走ることに躊躇し断念した。
置いていかれた忍のつれていた少年が気まずそうに未鷺の横を通り過ぎていった。
今度見つけたら処罰する、と心に決め、未鷺は苛々と風紀委員室に向かった。
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