特待生元秋
月曜日。
久しぶりに登校した元秋は同級生の視線を集めた。
席に着くと隣の裕二が弱々しく手を振ってきた。
「おはよー……。鬼原」
「何か弱ってんな」
机に置いた腕に顔を埋めた裕二はやつれたように見える。
「噂……あの噂だよ……。未鷺様が静谷先輩と……うわあああ」
「お前がなんでそれで落ち込むんだよ」
俺の方が余程落ち込みたかった、と元秋は思う。
裕二は顔を上げると元秋を睨んだ。
「なんで?!なんでって?!当たり前じゃないかー!俺は靖幸様×未鷺様しか認めないんだよ!」
「……そうかよ」
元秋は裕二にほんの少し罪悪感が沸いたがそんな必要はないんだ、と思い直し苦笑した。
「鬼原も静谷先輩と未鷺様の間には何もなかったと思うよな?な?」
「ああ」
これにはきっぱりと答えた。
すると裕二は目を輝かせた。
「そうだよな!……ということで鬼原君。俺は先週末ショックの余り君に大事なものを渡すのを忘れていたんだよ」
急にけろっとした様子で裕二は机から一枚ルーズリーフを出した。
「テストの範囲のメモ」
受け取りながら元秋は固まった。
試験のことなどすっかり忘れていたのだ。
「テストっていつだ?」
「今週の木曜日から土曜日までだよ」
「三日しかねえじゃねえか!」
中流家庭出身の元秋は特待生だからこそこの学園にいられる。
成績が著しく下がれば一般生徒と同じ学費を請求されることになり、そうなれば払い切れず退学しなければならなくなるかもしれない。
元秋が青ざめるのを見て裕二は「ごめん」と呟く。
「お前は悪くねえよ」
出校停止になった自分が悪いのだし、むしろ裕二には感謝すべきだと元秋はわかっている。
裕二を安心させるように頭をぽんぽんと叩くと試験範囲とにらめっこした。
それほどに広い範囲ではないが、近頃は勉強以外で慌ただしく過ごしていたせいか、苦手なところが目立つ。
勉強漬けになりそうな今週を思うと憂鬱になったが、元秋は『友達』に賢い人物がいるのを思い出した。
そしてにやりと笑う。
「鬼原大丈夫?テスト嫌過ぎて頭おかしくなっちゃった?」
「なんでもねえ」
元秋は放課後未鷺に電話しようと決めた。
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