秘密
日曜日の朝、或人が帰って来るからと早々に追い出され、元秋は自分の部屋に戻った。
そこには金髪に碧眼の美少女、に見える野原が居た。
「元秋、帰ったんだな!」
「ああ」
変装をしていない野原を明るいところで見るのは始めてだったが、元秋は大して驚かなかった。
客観的に見て整っているし可愛いと思うが、輪郭から予想出来る範囲だ。
「俺、実は変装してたんだ!」
「それはびっくりだな」
と、元秋は言っておくことにした。
その方が早く本題に入れると思ったからだ。
「皆には秘密にしといてくれよ!」
「わかった。で、俺もお前に秘密にしておいてもらいたいことがある」
野原の円い瞳が元秋を見詰めた。
元秋は慎重に言葉を選んで話し出す。
「俺と菖蒲のことだ」
野原が目を見開いた。
そして傷付いたような表情になる。
構わず元秋は続ける。
「俺と菖蒲と友達だし、俺は菖蒲のことを恋愛感情で好きだ」
「……何で俺に言ってくれなかったんだよ……親友じゃんか」
「菖蒲は学園で人気者だろ。俺が友達ってわかると嫉妬する奴がいるんだよ」
野原は口をへの字に曲げて元秋を上目で見た。
「元秋は俺もそういう奴だと思ったんだな?」
「違えって。誰にも言わないようにしてただけだよ」
小さい子供と話している気分になる。
元秋は必死で言葉を探した。
「だからこれは俺とお前と菖蒲だけの秘密な」
「秘密……」
頷いた野原が気まずそうな顔をしていたことに元秋は気付かなかった。
「あっ、そうだ!静谷って奴と未鷺のことはいいのか?」
ぱっと顔を上げて野原は尋ねた。
元秋は苦い顔をする。
「心配ねえよ、あの双子が言ってたようなことはねえ」
「そうなんだ……」
野原は腑に落ちていないようだが、それ以上聞いて来なかった。
「これからは俺と元秋と未鷺で遊ぼうな!」
満面の笑みを向けてくる野原に元秋は笑い返した。
三人で遊ぶ機会は訪れないだろうと思いながら。
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