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五日目4


野原が逃げるように出て行った後、未鷺はいつもの無表情で元秋を見上げた。

「見られたようだ。どうする」
「構わねえよ。馬鹿だが悪い奴じゃねえし、口止めすれば誰にも喋んないだろ」
「そうか」

未鷺は言いたいことを言って納得したようだが、わだかまりは元秋にもあった。

「おい、俺もききたいことがあんだけどよ」
「何だ」
「静谷って奴と会って何してたんだ?」

いつも以上に凶悪な顔をした元秋は未鷺の両肩を掴んで尋ねた。
未鷺は一瞬怯んだが、強気に見上げる。

「静谷先輩の絵のモデルをしたり、夕飯をご馳走になっただけだ。静谷先輩は噂のような男ではない」
「へー、そうかよ。じゃあ1ミリも触らせてないんだな?」
「ハグ程度だ」
「おいおい」

相手は下心があったに決まっていると元秋は思う。
この話は終わりだ、とばかりにそっぽを向いた未鷺の腰に片腕を回した。

「何だ」
「さっきの続きしようぜ」
「続き?」
「キスの続き」

首を傾げる未鷺を元秋は片腕で抱え上げた。

「何を!放せ!」
「軽いな、お前。ちゃんと飯食ってるか?」

ばたばたと未鷺が暴れるのを物ともせずに個室のドアを残りの手で開ける。
ベッドに未鷺を降ろすとのしかかった。

「相変わらず肌綺麗だな」

元秋は未鷺のワイシャツのボタンを外していく。
未鷺はそれを冷めた目で見た。

「元秋、課題は終わったのか」

元秋の手が止まる。
わかりやすく苦い顔をした。

「……明日の朝やるよ」
「馬鹿者。出校停止中に渡された課題はその日付のうちに終わらせるものだ。もう2分も過ぎている」

むくっと上半身を起こした未鷺は机に散らばるプリントに視線を落とす。

「集中すれば2時間で終わるだろう。俺はここで見てる」
「手伝う気はねえのかよ」
「当たり前だ。自分の課題を自分でやらなくてどうする」

はっきりと断られた元秋は、生徒会役員にほとんど課題をやってもらっていた野原をほんの少しだけ羨ましく思う。

「褒美をくれよ」
「褒美?」
「2時間で終わったらセック――」
「帰る」

元秋を遮るように未鷺はベッドを降りる。

「待て待て!じゃあ2時間で終わったらキスと添い寝。そんくらいはいいだろ!」

必死で元秋が言うと未鷺はぴたりと足を止めた。

「2時3分までに終わったら、だ」
「よし、待ってろよ」

ベッドに座り直した未鷺を一瞥して元秋は机に向かった。

その後ろ姿を見ていた未鷺が薄く微笑んでいたことは誰も知らない。

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あきゅろす。
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