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五日目2


未鷺が待ち合わせ場所についたのは約束の5分前だった。
廊下は既に静まり返り、誰も歩いていない。
未鷺に話があるという相手の姿もなかった。

ドアが開く音で振り返る。
未鷺はそこにいた人物を睨みつけた。

「鬼原」

少し怒気が含まれた声だ
構わず近付いてくる元秋に対してそのままの声で言う。

「虐められている生徒の相談だと聞いたが」
「ああそうだよ。電話もメールも無視されてんだ、お前にな」

冗談めかして言う元秋の目は拗ねたようだった。
未鷺は何も言えなくなる。

「……俺の部屋入れよ」
「山口は」
「寝た」

元秋は未鷺の手首を掴み部屋に引っ張り込んだ。
抵抗すれば放れるくらいの拘束は解かれなかった。

「会いたかった」

二人が部屋に入るなり元秋は未鷺を抱きしめた。
厚い胸板に埋もれて、未鷺は胸が痛くなる。
身をよじって元秋の腕から逃れた。

「俺は会いたくなかった」
「怒ってんのか」

顔を背ける未鷺の正面に回り、身を屈めて覗き込む。

「喧嘩の件は風紀に迷惑かけて悪かったと思ってる」
「迷惑などとは思ってない」
「じゃあ何だよ、呆れてんのか」

元秋は優しげに未鷺に尋ねた。
未鷺は唇を噛んで顔を上げる。

「お前が怪我をしたらどうしようかと思った!この馬鹿者!」

未鷺がこれほど声を荒らげるのは初めてだった。
面食らった元秋は未鷺の潤んだ瞳を見詰める。

「俺を心配したのか?」
「したら悪いか!」

未鷺はふて腐れたように言い、元秋を睨んだ。

「他はないのか、俺に言いたいこと」

未鷺の髪から頬へ滑るように撫でながら元秋は尋ねた。
元秋は一つ確信があった。

「……山口とお前から同じ匂いがした」
「シャンプーだな」
「俺には自分と違う物を使うように言い、山口とは同じ物を使うのか」
「お前に使わせようとして買ったのを置いてたら山口が使ってたんだよ。俺が選んだのを未鷺に使ってほしかった」

今度は未鷺が驚く番だった。
照れ臭そうに言う元秋をまじまじと見詰める。

「お前も妬いたりすんだな。可愛い」
「妬いてなどいるか!お前が紛らわしいことをするのが悪い。だいたいお前は近頃山口ばかり構っているだろう。山口と食堂へ行ったり、山口のために喧嘩したり。そんなに山口が好きなら――」

堰を切ったように喋り続ける未鷺の口を元秋のそれが塞いだ。
両頬を掌で包まれて目を見開いていた未鷺は、元秋が目をつぶっていることに気付くと、そっと瞼を閉じた。

唇が触れ合うだけの幼いキスが続く。
お互いの気配と唇の感触に夢中になっていた元秋と未鷺は、個室のドアが開いたことに気付かなかった。

「元秋……?未鷺……?」

その声に気付いた二人は離れ、声の主を見た。
金髪で色白、碧眼の美少年がパジャマ姿で二人を呆然と見つめていた。

「山口」

声と体型でそれが山口野原だとわかる。
未鷺が呟くと野原は傷付いたような顔をして部屋を飛び出した。

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