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四日目



処分四日目の放課後の時間帯、元秋は野原の目を盗んで一人で3階の廊下を歩いていた。
どうしても未鷺に会いたかったが、校舎への立ち入りを禁止されていて、連絡もとれない今、部屋に直接行くしか方法がないように思われた。

元秋の長身と強面は黙っていても注目を集める。
ちらちらと向けてくる視線を睨みつけて一蹴し、辿り着いた312号室。

未鷺がいるか、同室者がいるか、その両方がいるか、いないか。
未鷺だけがいることを祈ってチャイムを押す。

少し待つとドアが開いたが、顔を出したのは未鷺ではなかった。
地味で印象に残らないが整った顔をした男が元秋を査定するように見つめてくる。

「菖蒲さんのお客さん?」

元秋はハズレがでたことに落胆しながら頭を振った。

「客ではねえ。おしかけただけだ」

用意していた同室者用の答えを言う。
未鷺の同室者の三嶋或人は「へぇ」と感情のない返事をした。

「菖蒲さんならもう少しで戻って来るから部屋で待ってたら」

ありがたい申し出だが元秋は迷った。
出校停止処分中は寮の自分以外の部屋に入ることも原則として禁止されている。

「そこにいると目立つと思うけどなー」

確かに廊下を行く生徒はこちらの様子を伺っているようだ。
或人の言葉におされて元秋は玄関に入った。
そこで、喘ぎ声が聞こえることに気付く。

「……まだ日は暮れてねえぞ」

洋モノのAVがリビングのテレビに映っている。
よく見なくてもなかなかハードなSM系だとわかった。
ローテーブルにDVDのケースが置いてあるが、タイトルは日本語ではない。

「別にヌいてた訳じゃないよ。ただの娯楽だよ」
「娯楽でハードSM観るんじゃねえよ」
「ドイツから取り寄せたんだ。いいでしょ」

未鷺が苦手になるのもわかる、と元秋は思った。
会話が噛み合っていない。

「俺は三嶋っていうんだけどお前は?菖蒲さんに何の用?」

テレビの前のソファーに逆向きに座って、背もたれに顎を置き、或人は尋ねた。

「鬼原だ。今出校停止処分を受けてることで風紀委員に聞きたいことがある」
「それだけ?本当に?」

元秋は或人の目にに心を覗かれているような気分になった。

「そんだけだよ。文句あんのか」
「文句っていうか。まあいいんだけど」

唇を歪ませて或人は続ける。

「嘘ついてごめんね!菖蒲さんはまだしばらく帰って来ないよ」
「は?」

眉間に皺を寄せた元秋は堅気に見えない人相である。
或人は怯まず整った顔に笑みを浮かべた。

「鬼原君、取引しようか」

テレビから女性の喘ぎ声と鞭のしなる音が鳴る部屋で元秋と或人は睨み合った。

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