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三日目5

夕食を一緒に食べる、ということで未鷺は見回りの後、風紀委員室に寄らないでそのままアスカの部屋に足を運んだ。
待たせては悪いし、手伝えることは手伝うべきだと思ったのだ。

「どうぞー」

黒いエプロンをしたアスカとトマトの香りに迎え入れられる。

「座ってていいよ。パスタにソースかけるだけだから」

何か出来ることはないかと未鷺がキッチンに視線を送るとアスカは椅子を引いて示した。
先輩に働かせるのは気が引けたが未鷺は腰を下ろす。

「どうぞ召し上がれ」
「いただきます」

彩りの綺麗な冷製パスタがテーブルを飾る。
未鷺は手を合わせてフォークを手に取った。

未鷺が口に入れるのをアスカはじっと見ていた。

「どーお?」
「美味しいです」

本心から未鷺は答える。
佐助やアスカ、元秋までが出来るとわかり、未鷺は料理の練習をしようと心に決めた。

「良かった」

垂れ目の目尻を皿に下げてアスカは笑い、自分も食べ始めた。





他愛のないことを話しながら食事を終えると未鷺は皿洗いだけでもさせてほしい、と頼んだ。

「ミサちゃんにお片付けさせるなんて出来ないよー」
「俺にさせて下さい」

ほとんど食器洗いなどしたことがない未鷺だったが、やり方くらいはわかる。
困ったように笑ったアスカは未鷺を見て頷いた。

「うん、じゃあ一緒にやろっかー」

二人でシンクの前に並び、アスカが食器をスポンジで洗い、未鷺が泡を流す、という共同作業が始まった。

未鷺の華奢な手がぎこちなく皿を滑るのをアスカは微笑んで見守る。

「なんかこうしていると夫婦みたいだねーっ」
「夫婦?」

きょとんとして未鷺は繰り返す。
自分の両親は食器を洗っていただろうか、とぼんやり考える。
くすりとアスカは笑った。

「今日、ミサちゃんに構う理由教えてあげるって行ったじゃん」
「はい」

全ての食器を洗い終わったアスカはスポンジを置いて手についた泡を流し水気をタオルで拭き取った。
未鷺は残りの食器を流しながらアスカに顔を向ける。

「俺さ、ミサちゃんのいろんな顔が見たいんだよね」

アスカは未鷺の前髪を手櫛で耳にかけ、そのまま頭を撫でた。
かちゃ、と音を立てて未鷺が流していたフォークがシンクに落ちる。
未鷺は抱き寄せられていた。

「そんな理由じゃダメ?」

背中にゆるく腕を回されて、未鷺の濡れたままの手は宙をさ迷う。
ここ何日か触れなかった人の体温は未鷺を落ち着かせた。

このまましばらくアスカに寄り掛かっていたい、と未鷺は戸惑いながら感じていた。

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