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三日目2


「お前、何増殖してんだよ」


水曜日の午後、個室で勉強していた元秋が共有スペースに出ると、ぼさぼさ黒髪に瓶底眼鏡の少年が三人いた。
元秋は目が疲れているのかとまばたきをしたが、野原らしき人物が三人いることに変わりはない。

「野原に向かって増殖とか言わないでよね」
「むかつく野郎だな」

喋る声で正体がわかった。
空と陸が野原と同じ変装をしているのだ。

陸は少し背が高いので区別出来るが、空は野原と身長が同じくらいで分かりずらい。

「……何やってんだ」

頭痛を感じながら元秋が質問を変えれば野原は胸を張った。

「空と陸が変装すれば俺達で遊びに行っても大丈夫だろ!」

野原なりに親衛隊対策をした結果らしい。
確かにぱっと見では空と陸だとはわからないが、異様な光景なので、注目を浴びるだろう。

「お前らはそれでいいのか……」

空と陸を半眼で見て尋ねると、陸は鼻で笑った。

「野原の言うことに間違いはねェンだよ!」
「すごーく名案だよね。変装するだけで堂々と野原と遊べるんだもん」

空のいつもの天使の笑顔は眼鏡に隠されて見えない。

「もう勝手にやってろ」

元秋は冷蔵庫から烏龍茶の入ったペットボトルを取って部屋に戻ろうとする。

「元秋も一緒に行こうぜ!」
「嫌だ」
「えーっ、なんでだよ」

何が悲しくて瓶底眼鏡団と共に遊ばないといけないんだ、と元秋は思う。

「あいつはほって置けよ」
「うん。そうしよ、ね?野原」
「……うーん。元秋また今度な!」

にこっ、と眼鏡の下で笑みを見せる野原を一瞥して元秋は個室のドアノブに手をかけた。

「それじゃあ未鷺を尾行するぞー!」
「おーっ!」

しかし野原の掛け声とそれに呼応する双子の声で元秋はペットボトルを取り落とした。

「お前ら何する気だ!」

突然元秋に怒鳴られた野原と双子は眼鏡の奥の目を丸くする。

「何って……」
「菖蒲ちゃんをツケるんだけど?」

当然のことのように答える空を見て、元秋は自分の聞き間違いじゃないことを残念に思った。

「菖蒲を尾行って……。風紀にあんま迷惑かけんな!」
「未鷺のためだよ!未鷺が心を閉ざしてる理由を知って、友情を教えてあげるんだ!」
「お前風紀を気にするとか、菖蒲に惚れてンじゃねェだろーな?」

にやにやと嫌な笑みを浮かべながら陸は元秋を見た。
完全に図星だったが元秋は頭を振る。

「処罰中に風紀に変な真似したら余計に期間延ばされんだろ」
「心配してくれてるのか?でもバレないようにするから大丈夫だぜ!」

元秋が心配しているのは未鷺の方だった。
野原の大丈夫ほど不安な物はない。

「おい」

意気揚々と出発しようとしている野原達を元秋は呼び止めた。

「俺も行く」

未鷺が被害を受ける前に野原を止めるため、元秋は野原について行くことに決めたのだった。

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