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一日目3

金井の手が壁に押し付けられた肩から離れたのを見計らい、未鷺は金井の股間めがけて足を蹴り上げた。

金井は未鷺から手を放してかわした。

「金井先生」

出口の前に移動した未鷺はポケットからいつものボイスレコーダーを出した。
金井は目を見張る。

「この録音をしかるべき場所に提出すればいくら貴方のコネがあろうと教員免許を失うと思いますが」
「お前いつから……!」
「この部屋に入ったときからです」

平然と言い放った未鷺に金井は顔を青くする。

「風紀を乱す行為はお控えください」
「……お前ちっとも可愛くねぇな」
「何とでも」

舌打ちして吐き捨てる金井を置いて未鷺は教室を出た。
風紀委員室に向かう足はわずかに震えている。
十分に先程の教室から離れたところで、未鷺はしゃがみ込んだ。

会話を録音していたと言ったのは嘘だった。
野原の件を断られて逆上した金井から逃げるためのでまかせだ。
情欲に満ちた金井の目は恐ろしかった。

少しそうしていると他の生徒がやって来る気配がして立ち上がる。

いつものように姿勢を正して風紀委員室に入った。

「あっ、菖蒲先輩。衣替え週間のポスターの掲示チェック終わりましたよ」
「そうか」

6月第一週は鳴鈴学園でも衣替えだった。
未鷺に書類を手渡してくる佐助は夏服姿が良く似合っていた。

「菖蒲先輩顔色悪いっすよ?体調悪いんなら休んだらどうっすか」
「気にするな。生徒会から認印は貰ったか」
「10分前に行ったら誰もいなかったらしいっすよ」

月初めは仕事が溜まっているはずだ。
生徒会室に誰もいないのは妙なことである。

「行ってくる」
「菖蒲先輩は休んでてくださいよ。俺が行きます」
「気にするなと言った」

心配そうに眉を下げる佐助にぴしゃりと言って、未鷺は同じ階の端にある生徒会室に行った。
ノックするとすぐ「はーい、入ってー」と甘い声の返事が返ってきた。
この声は会計の静谷アスカだ。
彼が生徒会室にいるのは珍しい。

「失礼します」

声をかけてドアを開けると、肩上まである髪の右側が黒髪、左側が金髪の美形が微笑んでいた。
片耳に銀のピアスをいくつもつけて、やや垂れた目に上がった眉と、軽薄そうな笑みがアスカの特徴だ。

「ミサちゃんじゃーん。何か久しぶりだね」
「その呼び方はやめていただけますか」
「で、どしたの」

パソコンの前に頬杖をついて、アスカは未鷺を手招きした。

「認印をいただきに」
「ちょっと待ってね」

立ち上がったアスカは会長のデスクの引き出しを開けると印を取り出した。

「『しーっ』だからね」

口に指先を当てて言うと、アスカは鼻歌を歌いながら未鷺の持って来た書類にはんを押した。

「他の役員は」
「午前からヤマグチ君のところに遊びに行ってるみたいだよー」

また山口か、と未鷺はため息を吐きたい気持ちになる。
最近どこへ行っても野原の名前を聞いていた。

「『野原に手を出さないでくださいね?』」
「……」
「萩野副会長の真似ー。似てない?今朝俺言われたの」

アスカは自分のやった物真似で吹き出した。
未鷺はアスカの空気に流されてこくりと頷いた。

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