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とある少年の暗躍


元秋が呼び出されたのとほぼ同時刻。

ゆるいパーマがかかった黒髪と黒目がちなのが特徴の可愛らしくもかっこよくも見える少年が、寮の2階の廊下を歩いていた。

この少年、三年S組千堂翼(せんどうつばさ)のことを知らない生徒はほとんどいなかった。
知らない生徒がいるとしたら、翼が今会おうとしている者ぐらいだ。

202号室の扉が開き、慌てた様子の生徒が飛び出てくる。
ぼさぼさ頭に瓶底眼鏡の山口野原だ。

「山口君……?」

不安げな口調で翼は話しかけた。
「何?今急いでるんだ!」

野原は今にも走り出しそうだった。

「あのね、山口君のお友達の鬼原君が強そうな人達に襲われてるのを見たの……」
「どこで?!」
「西校舎裏の倉庫前」

翼が答えるや否や野原は駆け出していた。

翼にとってこれは賭けだった。
情報によれば今回翼が襲うように命じた鬼原元秋はかなり強いらしいが、野原が自ら現場に行けば面白いことになる。
もし、野原が風紀に通報すれば襲撃そのものが失敗するかもしれないが、あのコマ達が翼の名を吐くことはないだろう。

満足した翼は上機嫌で校舎に戻った。




そこは、異様な空間だった。
一般的な教室と同じくらいの部屋じゅうに、一人の人物の写真が貼ってある。
大小様々な写真達に囲まれて、翼は報告を待っていた。

「翼様」
「どうだった?政田(まさだ)」

政田と呼ばれたのは印象に残らない普通そうな生徒だった。

「鬼原に返り討ちにされそうでしたが、山口を人質にしていました」

どうやら翼の賭けは当たったらしかった。
友達が目の前で殴られたら、さすがの野原でもショックを受けるだろう。

「それでどうなった?」
「菖蒲未鷺が来たので中断されました」

未鷺の名前を聞くと、翼は整った眉を寄せた。

「また菖蒲が邪魔したの?」
「はい。篠田達と山口達の両方に処罰を与えるつもりのようです」
「ふーん。別にいいけど」

ふて腐れたように呟くと、翼はうっとりした表情で一枚の写真を手に取った。

「何があっても靖幸様に近付いた奴は消す」

千堂翼。
前回の抱きたいランキングで、未鷺と空に続いて3位。
そして、竜ヶ崎靖幸親衛隊隊長。

あと、俺を邪魔する奴もね。

翼が小さく零した言葉を聞ける者はいなかった。

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