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戸惑いと胸騒ぎ



日が出ている間に未鷺が312号室に帰るのは一週間ぶりだった。

今日は土曜日で、授業はあるがいつもより早い時間に終わる。
外出申請をして学園の外に遊びに行く生徒も少なくない。
三嶋或人もその一人なので、部屋に姿はない。

未鷺は実家から届いた未開封の小包を見つめていた。
中身はわかっている。
元秋に自分のシャンプーを持って来いと言われ、家にいるお手伝いに送らせたものだ。

元秋の髪から香ったのが野原と同じ香りだった。
それだけで未鷺は昨夜、元秋から逃げてしまった。

元秋は転入生とは同じものを使っている。

未鷺は自分がそれだけのことで何故心を痛めているのかわからなかった。

もし、あの時逃げなかったら、と考えると未鷺は顔が火照った。
あの獣のような目で見つめられ、低い声で囁かれ続けたら。
あの大きい口なら、何でも食べてしまいそうだ、と思う。

しかし、未鷺がこんな女々しい理由で逃げ出したと知ったら、男らしさのかたまりのような元秋はきっと軽蔑するだろう。

生徒会役員を虜にした野原に、元秋も惹かれていってしまうだろうか。

嫌だ、と悲鳴をあげるように胸が痛んだ。

気持ちを誤魔化すように小包を机の下に隠し、未鷺は着替えて本でも読もうと思った。

未鷺が髪を結んでいたゴムをとり、ベルトを外してワイシャツの裾をズボンから出した時、携帯が鳴った。

二年A組の風紀委員からのメールだった。

『HRの後に鬼原の様子がおかしかったから部屋を見に行ったら山口しかいなかった。もしかしたら何かあったかも』

メールを読み終わると、どくん、と心臓が揺れる。
胸騒ぎがした。

『わかった。鬼原の外出申請の有無を学生課に確認後、ないようであれば他の委員と食堂や売店を見に行け』

それだけ打って返信すると、未鷺は元秋に電話をかけた。
未鷺からかけるのは初めてだ。

出てくれ、と祈るように携帯を耳に当てていたが、無機質なコール音が何度も繰り返される。
一分程待っても元秋は出なかった。

電話をかけるのを止めて画面を見ると、新しくメールが届いていた。

『西校舎の裏の倉庫前でケンカしてるみたいです』

風紀委員への通報メールだった。
未鷺はボイスレコーダーを掴むと部屋を飛び出した。
元秋かもしれない、と考えるとじっとしていられない。

「えっ?!未鷺様?」

珍しく髪を結ばず制服を着崩して廊下を走り抜ける未鷺に、すれ違う生徒は驚きの声をあげた。

そんな声に構っている暇もなく、階段を駆け降りて西校舎に走る。

頭が真っ白だった。

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あきゅろす。
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