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元秋の受難2


これは完全にまずい、と元秋は思った。

食堂のど真ん中にある長方形のテーブルの長辺に、靖幸、野原、慎一が、向かいに陸、空、爽太が座っている。
元秋は普通の席に座ると隣の人に腕が当たってしまうので、短辺の方に座っていた。
お誕生日席とも呼ばれる席だが、慎一と爽太に睨まれながらでは全くおめでたくない。
おまけに、食堂にいる他の生徒からの冷たい視線を感じる。
元秋が一睨みすれば生徒は慌てて目を反らすが、気になって仕方ない。
せっかくのカツ丼の味がイマイチわからなかった。

「慎一のエビフライおいしそうだな」
「食べたいのかな?いいよ。あーんして?」
「えっ、恥ずかしいだろ!」

と言いながら口を開く野原。
それを引き金に、野原に餌付けしようと躍起になる双子。
忌々しげにその光景を見る爽太。
薄く笑う靖幸。

食堂中の視線を集めるに決まっていた。
可愛らしい少女のような外見をしていた生徒も、嫉妬に顔を醜く歪めている。

全く食べた気がしない昼食だった。




クラスでの元秋への視線も変わった気がする。
前はただ近寄り難く思われているようだったが、最近では密かに避けられている。
帰りのホームルームが終わって、教室の外へ出ると、息苦しさから解放された感じがした。
避けられたからといって落ち込むような繊細な神経を持っていない元秋でも、重苦しい空気は御免だった。

寮に戻ろうと、生徒達で混雑した廊下を歩く。
手にくしゃっとした紙が当たって、反射的に握った。
見ると、丸められたメモだった。
すれ違い様に誰かに渡されたようだ。
振り返って確かめようにも、生徒が多すぎてわからない。

『鬼原元秋さん。西校舎裏の倉庫前においでください』

開いてみると、丁寧な字で書かれたそれは、間違いなく元秋宛だった。
今朝、裕二に注意された元秋は、これが親衛隊からの呼び出しだとわかる。
行かない手もあるが、売られた喧嘩は買うのが元秋のモットーだ。

「鬼原、どうした?」

廊下で立ち止まっていた元秋に気付いたのか、クラスの風紀委員が尋ねてくる。

「何でもねえよ」

わざわざ風紀委員の手を煩わせる必要はない。
早めに自分の手でケリをつけよう。

そう思った元秋はその足で西校舎裏まで向かった。

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あきゅろす。
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