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元秋の受難



「鬼原おっはよー。今日はいつもに増して顔恐いね。誰か殺ってきた?」

元秋は話しかけてきた裕二を半眼で見やった。
その目を目撃した同級生が椅子から転げ落ちたが、元秋の知ったことではない。

元秋は朝から未鷺に電話したが、聞こえてきたのは『お繋ぎできません』というアナウンス。
恐らく着信拒否されたのだろう。
相変わらずメールの返信もなく、連絡がとれない状態だ。

「そうだ、鬼原に言っておかなきゃ」

裕二は元秋に近づくと、小さな声で続ける。

「各親衛隊が山口野原の制裁に動き出してる。これは新聞部の確かな情報筋から来てるから絶対」
「……そうかよ」
「あと、これは未確認情報なんだけど」

裕二は更に声を落とした。

「制裁対象に鬼原も入ってるらしいよ」
「あ?」

元秋の親衛隊に対する情報は少なかった。
生徒会や人気者に近づく生徒に暴行や強姦などを行い自主退学に追い込む隊もある、と聞いたことはあるが、生徒会に憧れたことがない元秋には無縁だった。

「山口野原が親衛隊にとっては一級犯罪者なわけだけど、山口を牽制するためにはその友達も、ってね」
「あんな女子みたいな野郎に俺がどうこう出来んのかって」

下らねえ、と元秋は嘆息する。
今は未鷺のことで頭がいっぱいなのだ。

「そりゃあ親衛隊のチワワちゃん達が直接手を下したりしないよね。あの子達のコマのデカイ奴らが動くわけ。鬼原の場合はボコボコにされるんじゃない?」

この学校の生徒一人相手だったら、元秋は負ける気がしなかった。
しかし集団ともなると、相手と人数による。
格闘技系の部員がいたら厄介だ。


「正直、鬼原が小さくて顔恐くなかったら、もうヤられてたと思うね」
「お前なあ……」

あっけらかんと言う裕二に、元秋は呆れながらも感謝する。
裕二なりに注意してくれているのだ。

「ま、鬼原なんか抱いたら締め殺されそうだし、その点は安心していいよ」
「気色悪いこと言うんじゃねえよ!」

元秋は鳥肌が立つのを感じて裕二への感謝を取り消した。

今更、自分の穏やかな学園生活が悪い意味で変わってしまったことを実感する。
だからといって、野原を突き放せる元秋ではない。
もう関わってしまったのだ。

「突き通すしかねえか……」

そう呟いた自分を、裕二がいつになく真剣な心配の表情で見ていたことを、元秋は知らない。

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あきゅろす。
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