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生徒会の皆様+α


姿勢良く立っていたのは菖蒲未鷺だった。
未鷺を待たせていたことに気付いた爽太は青ざめる。

「一般生徒がどうしてここにいる」
「あ……えと」

爽太は助けを求めるように振り返った。
靖幸は面白いものを見るような目で傍観し、慎一は野原を抱えて頭を撫でていて、双子は野原を奪おうと躍起になり、元秋は未鷺を凝視している。

誰も助けてくれなそうだ、と泣きたくなった爽太の横を、未鷺は無言で通り過ぎた。

「一般生徒を三人も入れるとは何の真似だ。立場と場所をわきまえろ」

役員たちを睨み付けた未鷺の視線は靖幸に止まった。
ソファーに緩く腰掛けたまま未鷺を見上げる靖幸の眼差しは凄艶で、人並み外れた美形二人の睨み合いに、爽太は息を飲む。
慎一と双子も押し黙った。

「あっ、未鷺だ!」

空気を変えたのは眠気から復活した野原だった。

「未鷺も遊びに来たの?慎一がいれた紅茶ってすっごく美味いんだぜ!」

元秋は野原の能天気さに脱力する。
未鷺の眉間に薄く皺が寄った。

「彼らは僕が呼んだんだよ」

王子スマイルで慎一が言うと、未鷺はそちらに顔を向けた。

「一般生徒の声は生徒会運営に役立つんだよ。生徒を一方的に押さえつけるだけの風紀委員の仕事と違ってね」
「慎一って仕事熱心なんだな!」

妙なところで感心する野原に、未鷺は目もくれなかった。
几帳面にファイルに閉じられた書類をデスクに置いて、慎一を見据える。

「そういったことは最低限の仕事を終わらせてからやれ。宿泊学習の日程表がまだ風紀に届いてないのだが」

慎一は言い返すことが出来ず笑顔を凍らせた。

「偉そうにしてンじゃねェよ平風紀委員が!犯すぞコラ」

陸が立ち上がって未鷺に怒鳴る。

「論理で返せなければそう喚くのか。生徒会役員が聞いて呆れる」
「出てってよ、菖蒲ちゃん」
「そうするつもりだ」

天使の見た目に似合わない棘のある声で空が言う。
未鷺は踵を返すとあっさりと出て行った。

元秋は去り際の未鷺と目が合ったような気がしたが、その目からは何も読み取れなかった。

「きっと……」

ぽつりと野原が言った。

「きっと未鷺は一緒にお茶を飲んでる俺たちを見て寂しくなったんだよ。今度は未鷺もまぜてあげなきゃ」
この場にいる野原以外の全員がそうでないことをわかっていたが、誰も否定しなかった。

「仕方ない。仕事を片付けようか」

慎一は仕事熱心な副会長ぶりを野原に見せつけることにしたようだった。

「僕も仕事する」

慎一の思惑がわかった空と陸も慌てて文書作成に取りかかった。
そんな中、靖幸だけが悠々と紅茶を飲んでいる。

「靖幸も宿泊学習の日割りを決めないとでしょ?」

パソコンの影から顔を覗かせて空が尋ねると、靖幸は小さく笑った。

「俺は終わってる」

靖幸の言葉を聞いてパソコンのファイルをチェックした慎一は、日割りが完成していることを確認した。

「本当だ」

慎一がつけている王子の仮面が悔しげに歪んだことに、目を点にして靖幸をみる野原は気付かなかった。

「靖幸ってちゃんと仕事するんだな」
「あんなもんにそんな時間はいらねえからな」

空いた野原の隣に座り、靖幸は鼻で笑った。
慎一はさらに苦い顔をするとパソコンに向かった。

野原の靖幸を見る目が変わっている。

「そういや静谷(しずたに)はどこいった?」

陸が会計の席が空なのを見て首を傾げた。
静谷アスカは現生徒会メンバーで唯一の三年生だった。

「静谷先輩もお仕事は終わらせているみたいだよ」

宿泊学習の予算振り分け表のデータはデスクトップに貼り付けられていた。

「俺、その人に会ったことない!」
「そのうち会えますよ」

そう言って慎一は笑った。

すっかり存在を忘れられている気がして、元秋は嘆息する。
未鷺と話がしたい。
生徒会役員と野原のやりとりを聞き流しながら元秋はそればかり考えていた。

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あきゅろす。
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