[携帯モード] [URL送信]
風紀委員のお仕事



未鷺はどうして自分がこれほど不愉快なのかわからなかった。
食堂での一件はあの場限りではすぐに騒ぎを止めることが出来たし、今のところ山口野原に対する親衛隊の制裁の話も聞いていない。

それにも関わらず、未鷺の心は落ち着かなかった。



放課後、風紀委員室に向かっていた未鷺の携帯が鳴った。
風紀委員への通報メールだ。

『第三音楽室で一年生が取り囲まれてるみたいです……』

風紀委員のメーリングリストのアドレスは全校生徒に知らせてある。
暴行の現場を目撃したとき、匿名で通報出来る仕組みだ。
そのメールは風紀委員全員に届く。
現場に近いところにいる委員が「自分が行く」という意志を示すため空のメールをメーリングリストから風紀委員に送信する。

この仕組みを整えたのは未鷺だった。

第三音楽室は未鷺の現在地と近い。
未鷺は風紀委員にメールすると、音楽室に走った。

「嫌だ!放して!」

防音設備が整った第三音楽室の扉を開けると、泣き声混じりの悲鳴が聞こえた。

可愛げのある顔立ちをした生徒が大柄な生徒に羽交い締めにされ、はだけられた上半身を他の生徒にまさぐられているところだった。

加害者は三人。
どれも三年のネクタイピンをしている。
対して被害者は一年生だった。

「一年生を放してそこに直れ」

未鷺の毅然とした声が四人の動きを止める。
一年生が先に我に帰り、三年生の手から逃れた。

「学生証を出せ」

鋭い視線を浴び、三年生たちは竦み上がるとポケットを探り始めた。
皆、菖蒲家が持つ権力や未鷺自身の能力を知っているようだった。

「菖蒲先輩!」

音楽室に佐助が飛び込んで来た。
酷く息を切らしている。

「どうした。佐助」
「加害者が複数みたいだったので一応……。でも大丈夫みたいっすね」

素直に並ぶ三年生を見て安堵のため息を吐いた佐助はジャージ姿だった。
部活中だったらしい。

「何も問題ない。お前は部活に戻れ」
「風紀委員室までの連行だけはやっていきますよ」

仕事熱心だな、と未鷺は感心した。
佐助に加害者は任せることにして被害者に向き直る。
床に放られていたブレザーを背中に掛けてやった未鷺は被害者に視線を合わせるように屈んだ。

「痛いところはないか」

未鷺の瞳に覗き込まれて顔を真っ赤にした被害者を見て、佐助は未鷺信者が増える予感がした。

「じゃあ行ってきますね」
「頼んだ」

加害者の学生証を確認してから佐助は三人を連れて部屋を出た。

「俺は風紀委員二年の菖蒲未鷺だ。名前は?」
「一年の永田春也(ながたはるや)です」

服装を整え終えた春也は落ち着きを取り戻したようだった。

「永田が良いなら先程のことを詳しく聞かせてもらいたい」
「……はいっ。あの、さっきの人たちは新聞部だって声をかけてきて、一年生にアンケートを取りたいって。僕暇だったのでついて行ったんですけど、人気のない方に連れてかれて怖くなって、断ろうとしたら手を引っ張られてここに……」

言い切った春也の目から大粒の涙が溢れた。
未鷺は清潔そうなハンカチを渡して春也の頭に手をのせる。

「こんな目に遭ってこの学園が嫌になったか」
「違うんです、抵抗出来ないで、叫ぶだけだった自分が情けなくて……!」

未鷺の気配が変わったことに気付いて春也が顔を上げると、未鷺はうっすらと笑みを浮かべていた。

(*前へ)(次へ#)
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!