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食堂で大騒ぎ3

「やっぱり双子だったんだな!兄弟がいてうらやましい!」

眼鏡と髪に隠れていない部分でもわかるほど無邪気な笑みに、恐る恐る見守っている生徒達もポカンとする。

「お前さあ」

黙っていた靖幸が薄い笑みを浮かべて野原の耳元に口を寄せた。

「下手な変装はやめたら?」

そう囁いて靖幸は野原の髪を耳にかけ、耳たぶに噛み付いた。

「な、なにをー!」

顔を真っ赤にした野原は立ち上がって拳を振り上げた。
傍観していた生徒達は悲鳴を上げる。

しかしその拳は靖幸に触れることはなかった。
元秋が野原の手首を掴んで止めたのだ。

「も、元秋!離せよぅ!」

元秋から解放されようと暴れるが、掴まれた右手はびくともしない。

「お前は落ち着けよ」

元秋は盛大にため息を吐く。
こんなところで生徒会長に暴力を振るったら夜には全校生徒に尾鰭つきで広まる。

今も生徒の野原達を見る目は鋭い。

「だって……」

元秋に解放された野原は靖幸を睨み上げたが、靖幸は笑みを深くするだけだった。

「そろそろ帰っかな。じゃあね、ノハラ君」

魅惑的に目を細め、屈んだ靖幸は野原に触れるだけのキスをした。
静まり返った食堂は、数秒後、今日一番の喧騒となった。
悠々と帰っていく役員達への悲鳴のような歓声と、取り残された野原達への罵声が響く。

「静かにしろ、席につけ」

抑揚のない凛とした声が元秋の耳に届いた。
聞き間違うはずのない、未鷺の声である。

「あっ、未鷺だ!」

騒ぐのをやめた生徒達の合間を縫って、野原は駆け寄った。
未鷺は無表情で野原に歩み寄る。

「未鷺も食堂にいたんだな!一緒に食べようよ」
「席につけ。山口」

未鷺の口調は有無を言わさぬものがあった。
傷付いたような顔をして野原は座る。
元秋は未鷺に視線を送るが、未鷺は元秋の方を見ようとしない。

皆が席についたのを確認すると、未鷺は窓際に戻って行った。

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あきゅろす。
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