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出会い


鬼原元秋(きはらもとあき)は男らしい大柄な体型と強面に見合った性欲の持ち主だった。
全寮制男子高に入ったからと言って、その性欲がなくなるはずもなく、「抱いてほしい」と求められたら抱くことに抵抗はなかった。

しかしわざわざ嫌がる男を強姦する趣味はなく、そういった事件が学園内であったことを聞くたびに信じられない気持ちになっていた。
だから、加害者に共感するのはこれが初めてだった。

数人の生徒に囲まれている男は元秋が見た人間の中で一番綺麗で――抱きたいと思った。


「まさか未鷺ちゃんがここまで来てくれるとはなぁ」

ミサギ、というのが囲まれている生徒の名前のようだった。
元秋は木の枝に腰掛けて様子を見ている。

「ひとりで来るとかもしかしてヤられたかったのかな?」
「たっぷりサービスしてやるよ」

嫌らしい笑みを隠しもせずに、獲物にじりじりと近付く男たち。
未鷺は無表情で彼らを一瞥した。

「近頃この辺りで起こっている強姦の犯人はお前たちか」
「そうだけどなーに?未鷺ちゃんにもたくさん突っ込んであげるから拗ねなくていいんだよ」
「たまんねぇなその冷たい顔。歪ませてぇ」

男のうち一人が未鷺の肩を掴んだ。
それからは早かった。
未鷺は男の手首を掴み返すと捻り上げて身体を返す。
長身の男は地面に倒れ伏して、何が起こったかわからない顔をしている。
男が未鷺に投げられたことに気付く頃には、彼の仲間もみんな地面に転がっていた。

未鷺だけがしゃんと立っている。

「この件は停学のみじゃ済まないだろう。退学を覚悟し荷物を纏めて置け」

男たちを見下ろしながら言い放つ未鷺の手にはボイスレコーダーが握られていた。
呆気にとられて固まる男に背を向け、校舎へと足を向ける。
元秋は無意識のうちに木から飛び降りて未鷺の前に降り立っていた。

「何をしている」

未鷺は無表情のまま尋ねた。

どう答えるか、と元秋は思う。

近くで見るとさらに未鷺は綺麗だった。
肩までの艶やかな黒髪をハーフアップにして、細身をきっちりとブレザーに包んだ禁欲的な姿がかえって色気を醸し出している。
切れ長な未鷺の瞳に自分が映っているのが元秋は嬉しかった。

「昼寝しようとしてたら騒がしくてな」

元秋は事実を答えた。

昼休みを持て余して、午後の授業もサボって寝るか、と寝場所を探していたのだ。

「……木の上でか」
「悪いかよ」
「身軽だな」

豹のようだ、と未鷺が呟く。

「豹か」

言われて悪い気はしない。
元秋はにやりと笑った。

「それにしてもお前、一人でゴーカン魔に立ち向かうのはやめとけよ」
「口出しは無用だ」

未鷺は先程の身のこなしからして、簡単に負けない自信があるようだった。

「そうかよ」

元秋は笑みを深める。

「でも油断は禁物だな」

未鷺の手首を掴むとぐっと引き寄せ足を払った。
抱くように身体を支えて顔を近付ける。
至近距離で見ると未鷺の瞳は灰色だった。
長い睫毛が驚きで震える。

「相手のが強かったらどうすんだよ?」

未鷺が初めて表情を変えたことで元秋は気分が良くなった。
支える腰の細さに身体が疼く。
抑えられなくなる前に元秋は未鷺から手を離した。

バランスを崩して尻餅をついた未鷺は、元秋を見上げてる。
普通ならぶざまに見えるような姿も何故か優雅だった。

「俺が鬼畜だったらお前ヤられてたぜ」
「……忠告、感謝する」

元秋が差し出した手を素直に未鷺は取った。
立ち上がった未鷺は、元秋よりは小さいが意外に背が高かった。

「俺は鬼原元秋だ。お前は」
「風紀委員二年の菖蒲未鷺(あやめみさぎ)だ」

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