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接触


寮内は午前12時から4時まで出歩いてはいけない規則になっている。
仕事があるため帰りが遅くなる生徒会役員と各委員長、許可を取ってあるもの、そして見回り当番の風紀委員だけが許可されている。

未鷺は見回りのとき、いつもボイスレコーダーとデジカメを持ち歩いていた。
理事長は割と平等な人物で、証拠を提示しなければ罰則を生徒に与えない。

静かな廊下を歩き、誰にも会うことなく見回りを終えようとしていると、小柄な生徒がキョロキョロしながら歩いているのを発見した。
ボサボサの黒髪に瓶底眼鏡と、一度会ったら忘れなそうな姿をしているが、未鷺に見覚えはなかった。

「何をしている。部屋から出てはならない時間だ」

声をかけると、小柄なその生徒はまじまじと未鷺を見つめてきた。

「うわあ!お前すごく綺麗だな!お姫様みたいだ」

オヒメサマ。
自分が何を言われたかわからず、未鷺は固まる。
女性に例えられるのは好きではなかった。

「……学生証を出せ」
「え、なんで?」
「規則を違反した者の名前を控えるからだ」

学生証は部屋のカードキーとなっているので、どの生徒も必ず持ち歩いている。

「お前だって出歩いているじゃないか!」
「俺は風紀委員の見回り当番だ」
「そんなの不公平だ!」

と唇を尖らせた生徒から、ふわりと上質な薔薇の香りが漂う。
嫌みのない優しい香りだった。

「俺は風紀委員二年の菖蒲未鷺だ。お前は」

未鷺はとりあえず名前だけでも聞き出そうとする。

「未鷺かぁ。俺は二年D組の山口野原だ!よろしくな」

二年で未鷺のことを知らない生徒は皆無だ。
未鷺は佐助が言っていた転入生のことを思い出す。

「転入生か」
「そうだぜ!ここの寮広いから迷ってたところなんだ。俺の部屋まで連れてってくれよ!」
「……いいだろう。転入生なら今回の違反は見逃すが次回はないぞ」
「ありがと!未鷺優しいんだな」

野原の頬は赤くなっていた。
自分より低いその顔を見下ろし、未鷺はあることに気付いた。

「山口、部屋番号は」
「202号室だぜ!」

野原の答えを聞いて、未鷺は少し落胆した。
元秋に同室者が出来てしまったのだ。
今までのようにゆっくりしてはいけなくなる。

一方的に話し続ける野原に相槌を打ってやりながら202号室の前まで案内してやると、野原は頬を染めて未鷺を見上げた。

「また会えるよな?未鷺」
「同じ学園の二年だ。会わないことはないだろう。それと、忠告がある」
「なに?」
「この学園は男しかいないため、男同士の恋愛や性行為が頻繁に起こる。小柄な生徒は性暴行の被害者になる可能性もある。一人で人気のないところを出歩くのは避け、危険な目に遭いそうになったら大声を出して逃げろ」

未鷺が真面目に注意したにも関わらず、野原はにこにこと微笑んでいた。

「その話だったら匠さ……理事長さんから聞いたよ!俺は強いから大丈夫。未鷺こそ美人なんだから気をつけろよ!困ったことがあったら俺が助けてやるからな!」

呆然とする未鷺を置いて、野原は部屋に入ってしまった。
元秋に会いたいと思ったが、野原がいると思うと諦めて、未鷺は自室に戻った。

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