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叔父の協力


昼休み、未鷺は佐助の手料理を食べ終わり手を合わせた。

「菖蒲先輩、どうぞ」

その未鷺の前に佐助からお菓子の袋が差し出される。

「何だ」
「ポッキーっすよ。今日ポッキー&プリッツの日だから買っちゃったんすよね」

未鷺はぼんやりとしながらポッキーを袋から一本取った。
今日は11月11日。
元秋の誕生日。
そして思いを告げる日。

「菖蒲先輩仕事早いから今日の放課後は休みっすね」
「ああ」

今日は元秋となるべくたくさんの時間を過ごすため数日前から仕事を詰めてきた。

「今日伝えなければ……」

ぽつりと呟く未鷺に佐助は首を傾げた。






帰りのホームルームの後、担任の教師に呼ばれた未鷺は無表情ながら不機嫌だった。
ホームルーム終了直後に部屋に直行して元秋に来るようにメールする予定だったからだ。

「理事長がお呼びだ。今から理事長室に行くように」
「どういったご用件でしょうか」
「聞いてない。行ってみてくれ」

理事長に呼ばれたことなど今まで一度もなかった。
タイミング悪く初回が今日になってしまったことを残念に思いながら、未鷺は頷いた。

理事長は30代のようだが若々しく美形であるため、生徒に好かれている。
未鷺も彼に悪い印象はなかったが、今まで軽い挨拶をしたくらいで、会話したことはない。

不思議に思いながら早く終わらせてしまうため、早足で理事長室に向かう。

「菖蒲未鷺です」

ドアをノックして名乗ると、「どうぞ、待ってたよ」という声が聞こえた。

重いドアを開くと、机の奥に理事長の鳴宮匠が座っていて、その隣に変装していない野原が立っている。
そして、机の向かいには――

「誠……」

未鷺を振り返って、にっと笑ってみせる少年、錆名誠がいた。

「久しぶりだな、未鷺」

猫っ毛な茶髪と腕白な子供のような笑顔は、未鷺が良く知ったものだった。
少し身長が伸びて、端正な顔は大人びていたが、未鷺の親友だったその人に違いなかった。

「何ぼんやりしてんだよ?そういうとこ変わってねぇな」
「お前が、なぜ……」

未鷺は驚いてドアの前で固まっていた。

「理事長から来いって言われたんだよ」
「俺が匠さんに頼んだんだぜ!」

誠の後を継ぐように野原が言った。
未鷺はさらに困惑した。

誠は退学処分になったのだから学園の敷地内に侵入してはいけないきまりになっている。

「実を言うと野原は僕の甥でね。野原が君と錆名君を会わせてあげたいと言うから、彼をここへ呼んだんだよ」
「……それは公私混同では」

動揺しながらも、未鷺は思ったままを述べた。

「手厳しいね。事実だから反論出来ないけど、可愛い甥の願いを叶えてあげたい叔父のお節介だと考えてくれたらいいよ」

にこにこと匠は野原を撫でた。

「せっかくだからお前と話して帰ろうと思ってんだけど、嫌か?」
「嫌、では……」

誠からの誘いが嫌な訳がなかった。
妙な別れ方をした親友との一年ぶりの再会なのだから。

「それならいいじゃねぇか。理事長、まだ何か用事あんの?」

誠が尋ねると、理事長は首を横に振った。

「そっか。行こうぜ未鷺」

元秋に会いたいという気持ちもあったが、誠とは一年ぶりの再会ということもあって、未鷺は頷かずにはいられなかった。
誠と話した後、元秋に連絡しようと思った。

「山口」

誠と一緒に理事長室を出る前、未鷺は振り向いた。

「感謝する」

なぜ野原が錆名を知っていたのかわからなかったが、未鷺は親友と再会出来たのは嬉しかった。
礼を言われた野原は満面の笑みを浮かべてピースサインを出した。




「いいことするって気持ちいいな!」
「本当に野原は友達思いのいい子だね」

上機嫌の野原を褒めちぎり、匠は目尻を下げた。
この甥に匠は溢れんばかりの愛を注いでいるのだ。

「匠さん、お願い聞いてくれてありがとな!俺生徒会の奴らと遊んでくるから!」
「お安いご用だよ。ほら、カツラ被って」

カツラと眼鏡を装備していつもの変装姿の野原が出て行くのを見届けてから、匠は机の引き出しから一枚の資料を取り出す。
それに視線を落としてため息を吐いた。

「錆名誠が錆名組組長の息子だっていうのは野原には隠しておくべきだな」

純粋で可愛い野原は裏の世界を知らなくていいのだから。

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