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未鷺の決意


未鷺が風紀委員長としての仕事を終えて部屋についた時、ちょうど携帯が鳴った。
一年生同士が喧嘩していることを伝える通報メールだった。
すぐに風紀委員の一年生が、自分の出動を伝えるメールを寄越す。
未鷺は任せることにしてブレザーを脱ぎ、ハンガーにかけた。

メーリスが回るたび、未鷺は靖幸が無断で登録していたことを思い出す。
代替わりの際に靖幸の登録は解除したが、彼が何か言ってくることはなかった。

なぜ靖幸が登録していたのか。
本人に聞くのは何となく躊躇われた。
未鷺と靖幸は学祭でのキスの後、会話してなかった。

ハンガーを持ったまま巡らせていた思考は、部屋のチャイムが鳴って、中断された。
未鷺の心から靖幸に対する疑問が追いやられ、幸福感と緊張感が満たす。

ドアを開けて、元秋を迎え入れた。

「鬼原」

元秋の手にはスーパーの袋がさがっていた。
或人が生徒会専用フロアに引っ越して一人になった未鷺の部屋に、元秋は毎日のように訪れる。
そして時間があるときは二人で夕食を食べていた。

「お前今日は早く終わったんだな」
「ああ、一年生がよく働いてくれる」

元秋に早く会えるよう急いで仕事を終わらせたのは秘密だ。

レジ袋の中から野菜やパックに入った肉をキッチンの台の上に出していき、いくつかを冷蔵庫に閉まって、元秋は腕まくりした。

「味噌汁だけ作っとくぞ」
「悪い」

元秋は野菜を豪快に切って鍋に放り込むのを未鷺は後ろから眺める。

「すごい」
「あ?こんくらい誰でも出来るだろ」
「……」
「お前も練習すれば出来るようになるって」

濡れて冷たい手で未鷺の頬を撫でて、元秋は笑った。
未鷺はどくどくと鳴る心臓に気付かずにはいられない。
ごまかしようもなく、元秋が好きだ。





元秋の作った食事で腹が膨れた二人は、ソファでまったりと食休みする。

「鬼原、誕生日はいつだ」

未鷺は前から聞こうと思っていたことを漸く尋ねた。

「11月11日……」

何となく決まりの悪い顔で元秋が答えると、未鷺はきょとんとした。

「お前はもっと冬生まれだと思っていたのだが」
「いや、その反応おかしいだろ。普通ポッキー……あ、まあ未鷺だから仕方ねえか」
「何の話だ」
「何でもねえよ。つーか、名前に『秋』って入ってるんだから秋生まれで当然だろ」

未鷺は首を傾げた。

「元、秋というくらいだから冬なのかと」
「俺の名前は言葉遊びじゃねえんだからよ……。『元』は『はじめ』って意味だ。秋は収穫の時期だからそっからはじまるって意味なんだよ」
「秋から、はじまる……」

脱力した様子の元秋から視線を外して、未鷺は呟いた。

「名前の由来なんて説明すんの、小学生以来だ」

苦笑しながら元秋は未鷺の頭を撫でる。
元秋の癖のようになったそれの温もりを受け入れながら、未鷺は漠然と考えていたことを決意した。

元秋の誕生日に、自分の気持ちを伝えよう。

恋愛感情を打ち明けたことのない未鷺にとって、それは一大事だった。

元秋の誕生日まで、一週間。

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あきゅろす。
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