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生徒会室の変化


何か嫌だ。
何か嫌だ。
何か嫌だ。

野原は生徒会室に訪れる度に胸に靄がかかったような気持ちになる。

生徒会が代替わりして、或人が入ったのは野原にとって嫌なことではなかった。
或人とは宿泊学習でも同室だったので、仲良くしてあげようと思っている。

野原が気に入らないのは、慎一や空と陸の様子が僅かに変わったことだった。

「みんな!来てやったぜ!」

放課後、生徒会室に乗り込んだ野原に慎一や双子が笑いかける。
ここまでは前と変わらない。
しかし、

「後少しで一区切りつくから、そしたらお茶をいれるね」
「これが終わったら休憩にしよっか。ケーキもあるよ」

以前だったら野原が来ればすぐ『休憩』になったのに、野原は待たされることが多くなった。

勝手にソファに座って役員達を眺める。

ピンクの髪をした或人が慎一に書類を見せに行った。
或人が何か間違いをしたらしく、困った顔をする。
慎一はそれを見て、とても自然に笑った。
それは野原の指摘した嘘っぽい笑顔とは違うものだ。

以前は慎一の本当の笑顔は野原が作ってあげていたのに、今は或人に笑っている。
野原はそれが嫌だった。

ドアがノックされる音で野原は視線を慎一から外した。
立っていた或人がドアを開けに行った。

「あっ、未鷺。どうしたの?」

或人の口から弾んだ声が出た。
未鷺は書類を或人に見せる。

「ここに会長の印を」
「待ってて。今もらって来る」

未鷺の手から書類を受け取った或人は靖幸にそれを渡した。
野原はその或人の動きを目で追いながら、未鷺が渡せばいいのに、と思う。

「なぁなぁ未鷺、もうちょっとで休憩なんだって!未鷺も一緒にお茶飲もうぜ!」
「断る」
「なんでだよ!未鷺にはもっと交流が必要だぞ!」
「騒ぐな」

未鷺の冷たい反応で、野原は頬を膨らませた。
外ならぬ未鷺のためを思って言っているというのに、未鷺はいつもこの調子だ。
その色素の薄い瞳は野原のことを映してくれない。

野原は未鷺の視線を辿った。
靖幸と或人の方を見ている。
しかし、靖幸と未鷺のキスを見てしまった野原には、未鷺が靖幸を注視しているような気がした。

「未鷺、これ」
「助かった」

或人が書類を持って未鷺のところへ戻るときには、未鷺は窓の外をぼっとして見ていた。

「委員長忙しいだろうけど無理しないでね」
「お前も」

或人と短い会話を交わした未鷺は出て行ってしまった。

「やったー。僕達は終わったよ」
「僕も終わったよ」

空が大きく伸びをして言うと、慎一も続いて立ち上がった。

「休憩だね!」
「あのー、俺まだ終わってないんですけど!」

冷蔵庫にケーキを取りに走る空に、或人が片手を挙げて言う。

「お前が菖蒲にデレデレしてっから遅くなったんだろ?先に食ってンぞ」
「えー!確かにデレデレはしてたけど待っててくれたっていいじゃん」
「却下ー」

双子は或人を楽しげにからかいながらケーキの用意をする。

「野原が好きなショートケーキとガトーショコラだよ。二つとも食べていいからね」

天使のような微笑みで、空は箱から出したケーキを二切れ、野原用の皿に乗せた。
そして、空と陸は一切れのケーキを二種類とも半分に切り分けて、それぞれ自分達の皿に移した。

「空と陸は一切れ分でいいのか?」
「うん、僕たちは半分ずつで十分だから」

空と陸が二人で微笑み合うのを見て、野原は疎外感に襲われる。
この双子は野原を大事に思っているに違いない。
しかし、あくまで二人の一番は自分の双子の兄弟だ。
野原に入り込む隙間はない。

「靖幸は食べないのか?」

近頃口数の少ない靖幸に声をかける。

「いい」

席を立った靖幸は無表情で奥の仮眠室に入って行った。

「靖幸は最近家の方の仕事が忙しいんだよ」

ティーカップが乗ったトレイを運んで来ながら慎一は野原を慰めるように言った。

「そっか!忙しくなくなったらまたみんなで遊べるよな!」

楽天的な野原はそんな風に思って、慎一の紅茶とケーキを味わった。

新しい友達にこのことを話してみよう、と思いながら。

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