[携帯モード] [URL送信]
アドレス


「かんぱーい!」

風紀委員室は珍しく騒がしかった。
三年生の送別会と未鷺の委員長就任祝いを兼ねて、委員全員で飲み会が行われていた。
厳しい委員長のもとで行われているので、飲み物は当然ジュースのみだが。

「就任おめでとうございます」

佐助と話していた未鷺のグラスに、小気味よい音を立てて前委員長の忍のグラスが重なった。

「ありがとうございます」

少し警戒しながら未鷺は頭を下げる。

「委員長、お疲れ様でした」
「いえいえ、菖蒲君がいなかったらとても僕には勤まりませんでしたよ」

珍しい日に珍しいことが起こった。
忍の殊勝な言葉に未鷺も謙遜で返す。

「俺だけでは委員をまとめられなかったと思います」
「菖蒲君は良くやってくれました。何回お礼を言っても言い足りないくらいです」

忍は未鷺の手をいやらしい手つきで包んだ。

「だからお礼は今夜にでもベッドの上で――いたたたた」
「お気持ちだけで結構です」

忍の手首を捻りながら未鷺は淡々と答えた。

「ああ、言い忘れるところでした」

手首を摩りながら忍は続ける。

「休学していた真中君が転校を決めたらしいですよ」
「そうですか……」

忍の言った『真中君』とは前副委員長である。
胃腸を悪くして入院した真中は退院後も休学を続けていた。

「自宅から通える高校に入り直すそうです」
「真中先輩にはお世話になりました。直接お礼が言えたら良かった」
「それならお見舞いに行ったらどうです?住所わかりますよ」

忍の提案に、未鷺は迷わず頷いた。





「悪いね。せっかくの休みにこんなところに来させて」

未鷺は次の休日にさっそく真中の家を訪れていた。
半年ぶりに会う真中は思ったよりは元気そうで、ベッドの上で上半身を起こしていた。

「お邪魔でしたらすみません」
「ううん。僕は菖蒲さんの顔が見られて嬉しいよ。未鷺君は誰よりも仕事してたから、僕なんかが倒れて申し訳なかった」

気弱そうに笑う真中に、未鷺は「いいえ」と首を横に振る。

「真中先輩が仕事を教えて下さったからです」
「菖蒲さんは僕には出来ないことをたくさんしたよ。風紀委員メーリスとか、僕には思い付かなかった」

真中の口から風紀委員メーリスのことを聞き、未鷺は自分がし忘れていたことがあるのを気付いた。

「真中先輩をリストから解除するのを忘れていました。お休みのところ、メールが回っていたらすみません」
「あれ?入院した頃から僕にはメーリスが回って来なかったから、誰かが解除してくれたのかと思っていたけど」

未鷺は不思議に思って、携帯でメーリングリストの管理画面を開いた。
やはり、真中にはメールが届く設定のままだ。

「ちょっと見せてくれる?」

真中は未鷺の携帯画面を覗き込んだ。
リスト登録者の名前とメールアドレスが並んでいるページで、真中は「あっ」と声を上げた。

「これ僕のアドレスじゃないよ」
「誰が……」

誰かが勝手に真中のアドレスを変更をしたことになる。

「ちょっと待って」

真中は自分の携帯を開いてアドレス帳の画面を見つめると、

「やっぱりだ」

と呟いて未鷺に差し出した。

「前に仕事で連絡を取り合う用事があったからアドレスを聞いたことがあるんだけど――」

真中の携帯画面に表示されたアドレスと名前を見て未鷺は目を見開く。

「メーリスに登録されてるそのアド、竜ヶ崎靖幸君のだね」

(*前へ)(次へ#)
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!