嫌われた人
土曜日の午後、休日を未鷺と過ごすため312号室に訪れた元秋を迎えたのは或人だった。
「菖蒲さんは風紀で問題があったとかでいないよ。待ってれば」
元秋を通すと或人はギターが立てかけられたソファに座った。
「お前は今日出かけねえのか」
「心配しなくても二人を邪魔したりしないよ!菖蒲さんを思う存分可愛がって」
或人は腕時計に視線を落とした。
「今日は街行きのバスが遅く出るんだよ。あと5分で出てくー」
「お前毎週出掛けて何やってんだ?ギター弾いてんのか」
夏休みに出くわしたことを思い出して元秋が尋ねた。
「やっだー、鬼原君俺に興味津々?菖蒲さんと鬼原と俺で三角関係なんて嫌だよ!」
「……きめえこと言うな。つーかお前が生徒会役員だったってまじで信じらんねえな」
生徒会の響きにぴたりと動きを止めた或人は、苦い顔で、
「知ってたんだ」
と呟いた。
「クラスの奴に聞いたんだよ。お前も未鷺も中等部の生徒会役員だったんだろ。その時からお前らこんな感じなのか?」
「こんな感じ?そうだよ!菖蒲さんは俺を嫌がって怖がって気持ち悪がってる。中等部のときからだよ」
「理由なしでそうはならないだろ。何かあったんじゃねえの」
或人は長いため息を吐いて天井を見つめた。
答える気はなさそうだった。
「もう5分経っちゃった。鬼原が俺にめろめろになる前に行くよ」
ギターケースを背負って出口に向かう背中に、元秋は声をかける。
「次の生徒会入んねえのか?」
或人は振り向きもせず渇いた声で笑った。
「もうやだよ」
淡々と答えた或人が部屋を出るのを、元秋はすっきりしない気持ちで見送った。
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