次期会計候補
アスカ以外が揃った生徒会室は次の会計の話で持ち切りだった。
「人気で言ったら爽ちゃんが選ばれるんじゃないのぉ?」
机に両腕で頬杖をついて足を揺らしながら空が言った。
「会計は橋本爽太でいいな。静谷アスカと違って、あいつなら扱い易そうだ」
陸は片方の口の端を上げて空に頷いて見せた。
「それに爽ちゃんが生徒会に入れば野原が遊びに来てくれる回数も増えそうだもんね」
「だな」
楽しげに話し合う双子を、慎一は呆れた目で見る。
「橋本爽太が会計になるのはいいけど、彼が仕事をできなかったら誰がやるんだい?」
「慎ちゃん」
「慎一」
双子は同時に答えてくすくすと笑った。
慎一は今は副会長だが、中等部では会計をやっていた。
それでなくてもSクラスの授業の簿記や会計学は得意科目なので、やろうと思えば出来る。
しかし副会長の仕事に加えて会計の仕事までやるのはごめんだった。
今まで生徒会が野原と遊びながらでも何とかやってこられたのはアスカの天才的な仕事の早さにもよる。
Dクラスの橋本爽太に同じことが出来るとは思えないのだ。
「僕はやらないよ。余計な仕事なんか」
慎一が答えると、空は首を傾げた。
「じゃあ慎ちゃんは誰がいいの?やっぱりアル君?」
問い掛ける空の天使のような顔の中で瞳だけがぎらりと光った。
「アルがいいとは言ってないよ。確かにアルは中等部のときから会計処理は完璧だったけど。僕は僕の手を煩わせない人だったら誰でもいいんだ」
煙たいものを払うように手を振って、慎一は首を竦めた。
「アルの生徒会復帰なんて冗談じゃねェよなァ?あいつ俺たちから離れやがっただろ。今はただの地味野郎だ」
吊り上がり気味の目を凶悪に光らせて陸が毒づくと、空は円い瞳を靖幸に向けた。
「そう言えば、なんでアル君ってSクラス辞退して地味になっちゃったんだろ?靖幸知ってる?」
三人の視線が靖幸に集中する。
「知らないな」
微かに笑いながら答えた靖幸に、双子は「だよな」と納得したが、靖幸を一番近くで見てきた慎一は気が付いた。
靖幸は何か知っているのだと。
さらには、アル――三嶋或人の離脱に靖幸が関わっているのではないかと。
慎一はひそかに靖幸の口の端が歪むのを静かに見つめていた。
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