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かつての会計



「あー眠い眠い眠い眠い眠い」
「……」
「眠い眠い眠い眠い眠い」
「……」
「眠い眠いねむ」
「うるせえからもう寝ろよ」

元秋は呪文のように呟き続ける隣の席の裕二を睨んだ。

「それ特待生の発言じゃないね!俺は寝ない!寝ないぞ!でも喋り続けてないと寝ちゃいそうなんだ」

今は昼休みの終了5分前だ。
目の下に立派なクマを飼った裕二は真っ赤な目で元秋を睨み返す。

「うわ何だお前その顔。怖ぇぞ」
「鬼原に顔が恐いって言われたらおしまいだね」
「殴られてえのか。つーかどうしたらそんな顔になるんだよ」

ちょこまか動く小動物のようだった裕二がぐったりしているのを見て、思わず尋ねてから元秋は後悔した。

「新聞部の学園祭特別号の締め切りとヤスミサ界の夜明けが重なって二日間ほぼ完徹だからだよ……。しかも今日も仕上げなきゃいけない記事があるし」
「新聞部は仕方ないが残りは自重して寝ろよ」
「何言ってんだー!未鷺様が靖幸様の頼みならミスコンにも出るという事実を目の当たりにして祝わずにいられるか!」

それ勘違いだからな、と訂正したい気持ちをぐっと堪えて、元秋は叫ぶ裕二を見下ろした。
ヤスミサとやらの話は聞きたくないので話題を逸らすことにする。

「今日仕上げなきゃなんねえ記事ってなんなんだよ」
「あ、生徒会代替わりについての記事だよ。もうちょっとで投票だろ?それで事前に誰が生徒会に相応しいと思うかアンケートをとったんだよ」
「真面目なこともやってんだな」

裕二はノートを開いて元秋に見せた。

「今の生徒会役員はアスカ様以外1年生から就任してる。次の年度もその枠は変わらないだろうね」

だけど、と裕二は手帳の一部を指差した。

「アスカ様が退任される会計に誰が就くかが問題なんだよ。これ、集計結果なんだけど」

『会計……橋本爽太42%、三嶋或人37%、その他――』

手帳に走り書きされたアンケート結果を見て、元秋は目を見開く。

「三嶋?あいつ生徒会ってガラか?」
「鬼原、何言ってんの?或人様は中等部で生徒会会計をされてたじゃないか」
「はあ?」

顔は整っているが地味な変態、というのが元秋の或人に対する印象だった。
生徒会という学園のアイドル的立場にいるような存在だとは思えない。

「爽太様と或人様の一騎打ちになるね。これは盛り上がりそうだ!新聞部の腕が鳴るね!」

真っ赤な目のまま拳を握って語る裕二を横目に、元秋は頬杖をついて疑問を浮かべた。

或人は未鷺のために手を尽くしているのに、なぜ未鷺は或人を避けるのか。

その理由は未鷺が多くを語らない中等部のときにあるのではないだろうか。

授業開始のチャイムがなっても、元秋の頭の中は未鷺のことで占められていた。

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あきゅろす。
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