センチメンタル
『お前ミスコン出んだったら教えろよ。見逃すとこだったろ』
元秋から電話がかかってきたのは学園祭の片付けを終えて、未鷺が個室で寛いでいたときだった。
「成り行きで出たんだ、教える暇はなかった」
『成り行きで出て優勝って、お前恨まれんぞ』
呆れたような心配しているような、それでいて優しい声で言われる。
「恨まれることなど慣れている」
お前に好かれているなら平気だ、とは言ってやらない。
『お前がいいならそれはいいけどよ。でもな、あんな脚出すような格好すんなよ。あいつらあんな目で見やがって――』
思い出して苛々してきたのか元秋の口調が荒くなる。
未鷺は話半分に聞きながら、なぜ元秋の声は心地良いのだろうとぼんやり考えていた。
『おい、聞いてんのか未鷺』
「ああ」
『本当かよ』
苦笑する元秋に「本当だ」と返しながら未鷺はベッドに身体を倒し、布団に包まる。
「元秋」
『何だ?』
布団の端をぎゅっと掴みながら、携帯を耳に押し当てて、未鷺は静かな声を出す。
「学園祭に良い思い出はないのに、終わるのが寂しいのはなぜだろうか」
元秋と並んで歩けたら、とそんなのは甘い夢だとわかりながら言った。
(*前へ)
[戻る]
無料HPエムペ!