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副会長の憂鬱


微笑みの貴公子とは誰が初めに呼んだのか。
そいつの口を縫い付けて二度と開かないようにしてやりたい、と鳴鈴学園生徒会副会長の萩野慎一(はぎのしんいち)は思った。

いつも優しい笑みを浮かべている萩野様であるために、厄介事を押し付けられても嫌な顔ひとつしてはいけない。

それに彼の素を知っている旧友の竜ヶ崎の指示には、逆らってはいけない。

幼稚部からいる慎一はこの学園でどう振る舞えば良いか熟知していた。

「それにしても理事長は何考えてるんだ」

校舎から校門までの石畳の道を歩きながら慎一は呟く。
彼のストレートな茶髪は歩みに合わせてさらさらと揺れる。

転入生を迎えて理事長室まで案内しろ、との通達が生徒会に来たのは昨日だった。
そんなのは教師か暇な一般生徒がやれば良いと思うのだが、靖幸に「行け」と言われたら行かないわけにはいかない。

校門には、手荷物だけを持った小柄な生徒が立っていた。
その生徒の奇妙な格好に慎一は目を見張った。
明らかに不自然なボサボサ頭をして、瓶底眼鏡をかけているその姿は、オタクを通り越して不審者だった。

そんな変装を見抜けないほど慎一は馬鹿ではなく、形の良い鼻や輪郭から、この転入生が可愛らしい顔立ちをしていることを推測した。

「こんにちは。僕は副会長の萩野慎一です。転入生の山口野原(やまぐちのはら)君だね?」

もし食えたら食おう、と思いながら微笑んだ慎一を、野原はじっと見つめた。

「どうかしました?」
「慎一……無理して笑ってないか?」

質問を質問で帰された慎一は目を見開いた。
確かに面倒な仕事を押し付けられて気分は良くない。

「そんなことないですよ」
「俺は慎一に無理して笑ってほしくなんかないんだ!」

しかし笑わなければいけないのが慎一だ。
こんなにはっきりと言われたのは初めてだった。

「どうしてですか?」
「友達だからだよ!」

トモダチ。
曖昧な概念だと慎一は思う。
長い付き合いの靖幸だって友達だとは言い切れない。

「そうですね」

会ったばかりだというのに、妙なことを言う野原に、思わず素で笑ってしまった。
すると柔らかそうな唇を緩めて野原は笑った。

「そうやって笑う慎一の方が好きだぜ!」

青春ドラマのようなヒトコマは慎一も面白かった。
不細工はお断りだが野原が変装した美形なのは承知している。
これから楽しくなりそうだ、と慎一は思った。

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あきゅろす。
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