やさしくない
靖幸はポケットから震える携帯を取り出し、受信したばかりのメールを見た。
『二年の菖蒲だ。山口野原と二人で体育倉庫に幽閉されていた。犯人は不明。山口も俺も怪我はない。迷惑をかけてすまなかった』
未鷺が風紀委員宛に書いた堅い文を読み、靖幸は口角を吊り上げる。
「楽しいメールですか」
生徒会役員用にあてられた控え教室で、靖幸と少し離れた椅子に座っていた翼が尋ねた。
「つまんねぇ文だ」
言葉と裏腹に靖幸は面白そうに答えた。
それから着物姿の翼に視線を映す。
「今回のことはお前が仕組んだんじゃないんだろ」
「はい、違います。慎一様と陸様の親衛隊の暴走した下っ端が山口野原を狙ったんでしょう」
疑われたのにも関わらず、翼は嫌な顔一つしないで答えた。
靖幸はその顔を面白そうに見た。
「今年はお前の優勝はないな」
まだミスコンの結果は出ていないが、決定事項のような言い方だった。
今年優勝したら翼は三年連続優勝だった。
それでも、翼は表情を崩さない。
「そうですね。未鷺様が出たら勝てません。靖幸様が呼んだ特別ゲストが未鷺様だなんて驚きました」
「俺が出そうとしたのは未鷺じゃない。だがどっちにしてもお前は2位だったな」
「山口野原ですか」
「勘がいいな」
ミスコンに匿名で出場したいと言い出したのは野原だった。
衣装の希望を尋ねたら、『天使みたいなのがいい』と答えたのには笑ってしまった。
その衣装を着たのは未鷺だったが。
靖幸は立ち上がって翼に歩み寄り、剥き出しの肩に唇を這わせた。
「お前は未鷺と野原が体育倉庫にいるのがわかったくらい、勘がいいもんな」
「……状況から推測しただけです」
「そうか」
微かに翼が動揺したのを感じとると、靖幸はふっと笑った。
「靖幸様は俺に優しくないですね」
翼は靖幸の背中に腕を回して言った。
「優しくされたいか、野原みたいに」
靖幸は答えがわかっている質問をした。
翼は頭を横に振る。
「嘘の優しさはいりません」
満足そうに靖幸は笑った。
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