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愛情不足


こんなはずじゃない、と野原は思った。

助けに来た靖幸は一番に野原に駆け寄って抱きしめるはずだった。
それなのに靖幸は未鷺の元へ向かい、貪るようなキスをした。
逆光で朧げに見えた靖幸は酷く焦った顔をしていた気がした。

キスが終わり未鷺は靖幸の頬を叩いて出て行った。

野原と靖幸の二人きりになる。

野原はいつもと雰囲気が違う靖幸に声をかけることが出来なかった。

「野原」

靖幸に呼ばれた野原はほっとする。
これから労ってくれるのだろうと思った。
しかし、靖幸の口から出たのはねぎらいの言葉ではなかった。

「未鷺に手ぇ出してないよなぁ?」

あまりにも予想外なことを言われたのと、靖幸の声音が攻撃的に聞こえたのとで、野原はびくりと震えた。
そして何度も頷いて見せる。

「……ならいい」

誰もが目を奪われるような微笑を浮かべて、靖幸は踵を返した。
明るい外へ靖幸が出て行くのを、野原は無言で見送るしかなかった。

なんで俺を優先しない?
なんで俺を心配しない?
なんで俺を褒めてくれない?

なんで。

野原は自分をあやして可愛がってくれる人を求めてふらりと倉庫から出た。

慎一か陸か空か爽太に会おう。
そして慰めてもらうんだ。

頭の中で繰り返される未鷺と靖幸の重なる姿を振り払うように野原は走った。

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