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二年ぶり


未鷺は夢を見ていた。
過去を再現した鮮明な夢だった。
ちょうど二年前のことだ。

未鷺は中等部で生徒会副会長をしていた。
会長は靖幸だった。
中等部学園祭恒例の、生徒会による劇。
未鷺は不本意ながら白雪姫を演じた。
王子役は靖幸だった。
脚本を書いたのが未鷺の数少ない親友と呼べる相手だったのもあり、頑張って演技をし、良い劇にしようと思っていた。

本番の舞台上で靖幸に脚本にないキスをされるまでは。

未鷺は本番終了後、羞恥と怒りでいっぱいだった。
靖幸を呼び出し、問い詰めた。

「なぜ俺に嫌がらせばかりするんだ、人前でよくもあんなことを……!」

泣きたい気持ちで未鷺が声を荒らげると、靖幸は形の良い唇を歪めるようにして笑った。

「人前が嫌なら俺の部屋行くか?」

靖幸にとってはキスの一つくらいどうでもないことのようだった。
それで動揺する自分を未鷺は更に恥ずかしいと思い、言葉を失った。

「悪くなかった。お前の唇」

自分の唇を舐め上げながら言う靖幸のその仕草が、表情が、香水の香りが、

「嫌い、だ……」

未鷺はどうにかそれだけを口にした。

「お前が嫌いだ」
「それでも」

靖幸は緑の双眸で嬲るように未鷺を見つめた。

「未鷺から俺のとこに来させてやるよ」

未鷺の嫌いな笑顔で言った。



金属が擦れ合う音に次いで、激しく引き戸が開けられる音がした。
未鷺はそれが夢の中なのか現実なのかわからなかった。

自分にのしかかる重みと手首を床に縫い付けられた痛みで薄く目を開く。

誰かの顔がごく近くにある、と認識するより先に、唇に何かが押し付けられ、衝撃で目をつぶった。
唇に当たった柔らかいものは誰かの唇に違いなかった。

キスされている。

そう気付いて抵抗しようとするが、手首を掴む力は強く、体にのられているため身動きがとれない。
何者かの舌が唇を割って入り込み上あごを舐めて未鷺の舌に絡みつく。
渇いた咥内が熱い舌で湿らされていく。
くちゅくちゅと響く音に聴覚まで犯される。

未鷺は相手の胸を力の抜けた両手で押し返そうと必死になるが、ほとんど効いていない。

これが元秋だったら良いのに、と頭を過ぎる逃避が、心地良かった。
しかし未鷺は元秋が香水をつけないことを知っていた。
この香水の匂いを知っていた。

唇が解放されると未鷺は急に吸った空気にむせながら、相手を睨んだ。
金髪に緑色の双眸、絵に描いたように整った顔をした、靖幸だ。

「お前とすんの、二年ぶりだな」

唾液で光る唇を手の甲で拭って、靖幸は笑った。
未鷺は沸々とわき上がる怒りを抑えることをやめて靖幸の頬を叩いた。
靖幸は避けなかった。

「二年前と同じだと思うな」

二年前の動揺してうろたえた自分とは違う、という意味を込めて未鷺は靖幸を鋭い目で睨んだ。

「変わってないだろ」

靖幸が喉の奥でくっと笑う。

呆然とした顔でこちらを見る野原を一瞥して、未鷺は立ち上がり、倉庫を出た。

頭はぼんやりしていたが冷静だった。
風紀委員の誰かと会わなければ、と思い、生徒の歓声が聞こえる校庭の方へ足を進めた。

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