インパクト
「菖蒲さんにはあんな地味な仕事より教室の前に立って客引きしてもらった方がいいんじゃないかな……?」
「だったらお前が頼めよ」
「菖蒲さんに指図出来る訳ないだろ!」
2年B組のハンバーガーショップは開店直後からなかなかの盛況ぶりだった。
B組には生徒会親衛隊の幹部レベルの可愛さを誇る生徒が多く、廊下で鼻の下を伸ばした男達を捕まえて来る。
未鷺を一目見ようと噂を聞き付けた他校生もやってきていたが、当の未鷺はレタスと格闘中だった。
B組の生徒からすれば未鷺には呼び込みを頼みたかったが、未鷺は黙々と慣れない手つきでレタスを切っている。
下手に声をかけられない雰囲気だ。
「菖蒲さん、他校生がどうしても菖蒲さんに会いたいって……」
カウンターを担当していた生徒が困り顔で未鷺に声をかけた。
包丁を持つ手を止めた未鷺は細い息を吐く。
他校の生徒で親しい知り合いはいないので、わざわざ作業を止めてまで会ってやる気はなかった。
しかし、クラスメイトの八の字の眉を見ると放ってもおけなくて、未鷺は三角巾を頭から外すとエプロンはつけたままカウンターの外の飲食スペースに顔を出す。
「あの人達です」
クラスメイトの指した先では、いかにも柄の悪そうな他校生三人がテーブルを囲んでいた。
他の客は彼らを避けるようにしている。
「あれじゃね?アヤメミサギって」
未鷺に気付いた一人が言うと、残りの二人も舐め回すような視線を向ける。
「まじ可愛い。あれなら確かに男でもイケる」
「女より美人だな」
三人の視線を浴びた未鷺はぞわりと寒気がするのを感じながらテーブルの上を見る。
三人ともが完食したようなので、早く出て行かせようと考える。
「ミサギ君でしょ?」
「はい。お済みでしたらお帰りいただけますか」
近付いて声をかけると、さらに凝視される。
「帰るからミサギ君が鳴鈴を案内してよ」
「出来るだけ人気のないところにさ」
頭の悪そうな笑みを向けられて、未鷺は表情に出さず不快に思った。
他校生を目立つところで投げ飛ばすのは良くない。
確かに人気のないところへ行くべきか、と思案していると、クラスメイトが少し上擦った声で「いらっしゃいませー」というのが聞こえた。
強面で長身の男がワイシャツとスラックス姿で入って来た。
鳴鈴学園の生徒は彼が学生だと知っているが、他校生はそうだと思いつきもしない。
ただでさえ堅気に見えない顔の彼は、さらに不機嫌に眉を歪めた。
未鷺は元秋来てくれたのか、と呑気に思った。
「てめえら」
他校の三人を見下ろして、元秋は低い声を出す。
「鳴鈴で騒いでんじゃねえよ」
他校生にはその元秋の発言は、『俺のシマを荒らすんじゃねぇ』というヤクザの発言に聞こえた。
恐れをなした彼らはB組を飛び出した。
「チーズバーガーひとつ。持ち帰りで」
未鷺を一瞥した後、元秋はカウンターで短く言い、注文した物を受け取るとすぐに出て行った。
あのバーガーにサンドされていたレタスは俺が切ったんだと教えてやろう、と未鷺は思った。
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