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決定事項


「やっぱりAクラは地味だね。美形いないもんなー」

哀愁漂うため息を吐く隣の席の裕二を、元秋は横目で見る。
今はクラスのホームルームで学園祭の催しを決めているところだ。

「生徒会の皆様が揃ったSクラスと未鷺様や親衛隊幹部クラスのネコが揃ったBクラス……その間に挟まれた我らがAクラ」

クラスメイトからの提案で黒板に書かれたのはお化け屋敷や喫茶店、縁日などありふれたものばかりだった。
裕二はもう一度ため息を吐いて、頬杖をついた。

「去年はお前Bクラスだったか」

成績が上がった裕二は今年度からAクラスに入った。
去年は華やかなBクラスで学園祭を経験したことになる。

「そうそう!去年はBクラでアイスクリームショップ。本当は誰もが未鷺様にファンシーな格好で売り子をしてもらいたかったけど、畏れ多くて誰も未鷺様に頼めなかったんだよ」
「そんで菖蒲は何やってたんだ?」
「裏で食器洗ってたよ。食器を舐め回す客が続出!」
「きめえ」

夢を見るような顔で言う裕二を切り捨て、元秋は舌打ちして眉根を寄せた。
自分の知らない未鷺の話は知りたかったが、もっと早く未鷺と知り合いたかったと思ってしまう。

「今年はヤスミサ学園祭編期待していいかな?!この地味クラスで過ごす俺にちょっとくらい萌えと燃えのご褒美があったっていいよね?ね?」
「ねえよ!」

反射的に否定してしまった元秋を見て、裕二はぱちくりと瞬く。
この小動物のような顔をした少年が野生の勘に満ち満ちているのを思い出し、元秋はしまった、と思う。

「まさかとは思ったけど、鬼原……」

裕二の目が元秋を凝視する。
ごくり、と元秋は息を飲んだ。

「『アスカ×未鷺にときめく会』のスパイ?!俺を通してヤスミサ会の動向を探ってたの?!」
「するか馬鹿」

青筋を立てて低い声を出した元秋に、周囲の生徒は息を飲んだ。
裕二だけがあっけらかんとした様子で、「それならいいんだけど」と笑う。

「例の噂が広まってから奴らデカい顔しだして敏感になってんだよー、ごめん。まあ今はその噂も鎮静化してるけどね」

口止めされてるみたいに、と裕二は呟く。

アスカと未鷺の噂は宿泊学習を境としてぱったりと聞かれなくなった。
人の噂も七十五日というが、それにしても早かった。

「……同じ穴の貉なんだから仲良くしろよ」
「ぱっとでのCPに惑わされる奴らなんて信用出来ないよ!」

裕二が目を吊り上げて抗議するのを聞き流しながら、元秋はふと黒板を見る。

裕二と話している間にいろいろ決まったらしい。
いくつかの候補の中で丸がついているのは『お化け喫茶』というミックス感丸出しのものだった。

それはもう元秋にはどうでも良かったのだが、見逃せないのはその隣の、『狼男 鬼原元秋』という身に覚えのない決定事項だった。

「はあ?!」

ドスの聞いた声にクラスメイトが震え上がる中、呑気に言葉を発したのは勿論裕二だった。

「え?鬼原はフランケンシュタインでしょ!」

元秋は夏休みが明けて初めて裕二を殴った。

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あきゅろす。
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