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頭の中



夏休みの最終日、日鷹の秘書である倉本は未鷺を見送るためにガレージにいた。
もともと日鷹とは幼なじみであった倉本は、未鷺が小学生の頃から知っていた。
昔から可憐な顔立ちをしていたが、今の未鷺はどこか艶のある美しさだと思う。

「未鷺君、身体に気をつけて」
「はい」
「たまには日鷹様に連絡を。未鷺君に電話が通じないときの日鷹様は凄く沈んでいらっしゃる」
「はい」

未鷺は表情を変えず事務的に頷いた。
これは連絡する気はないな、と倉本は直感した。

「日鷹様も先代が亡くなってからあの若さで頑張られている。気が休まる暇もないくらいご多忙だ。未鷺君しか日鷹様の心のよりどころはないと思う」

倉本が話すのを、未鷺はじっと彼の目を見つめて聞いていた。
変な気分になりそうになり、倉本は目を背けた。

「たった二人の兄弟なんだ。未鷺君が力になってあげるべきだよ」
「はい」

また単調な返事だった。
未鷺は日鷹のことなどどうでも良いと考えているのではないか、と倉本は思った。

兄をお願いします、と機械的に言った未鷺は車に乗り込んだ。
未鷺に次に会うのは冬休みになるだろうと思う。

倉本は未鷺を乗せた車が見えなくなると、日鷹がいる書斎に向かった。

「言われた通りに未鷺君に言いましたが、表情ひとつ変えませんでしたよ」
「そう。ミサは無表情に見えるからなぁ」

男前の顔を崩して日鷹はにたりと笑った。
そうして彼が見せてきた携帯の画面には、一分前に届いた未鷺からのメールが表示されていた。
『行ってきます』とだけ書かれている。

「ミサはまだ俺のことが好きなんだよ。今は車の中で俺のことを考えているんだろうね」

満足気に笑う日鷹を倉本は気持ちが悪いと思った。
そして彼の弟に同情した。

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あきゅろす。
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