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元秋は未鷺が家に泊まったのが夢だったかのように例年と変わらない夏休みを過ごしていた。

今日は中学が同じだった友達二人と街に出て、遅めの昼食をファーストフードの店で食べていた。

「つーか元秋さ、鳴鈴行ったらちょっとは上品になるかと思ったら全然変わんねぇよな」
「鳴鈴の生徒でも上品なのなんてほとんどいねえよ」

未鷺くらいなもんだ、と胸中で付け足して元秋は口角を上げる。

「まじ?でも金持ちの優等生ばっかだろ?」

鳴鈴学園の生徒に対する他校生の印象はそんなものだった。
さすがに暴力事件や強姦まで起こっていることを教えるのは気が引けて、

「金持ちなだけで他の学校の奴らと同じだろ」

と答えておいた。
へー、とつまらなそうにする友人の後ろを、トレーを持って通った男が視界に入り、元秋は持っていたハンバーガーに噛み付くのをやめた。
ギターケースを背中から下ろし、四人用の席に座ったその男は元秋の知っている人物だった。

黒い髪を自然に遊ばせ、耳にはピアスが光っているが、癖のないすっきりと整った顔は、三嶋或人に違いなかった。

「学校の奴だ。ちょっと話してくる」

友人たちに言ってからシェイクを飲んでいる或人に近付く。

「三嶋」

声をかけるとちらりとこちらを向いた目が見開かれた。

「鬼原……なんでここいんの?びっくりした、不良に絡まれたのかと思ったよ!」
「家この辺なんだよ。お前は?」
「んーと」

いつもの飄々とした様子は違い、或人は歯切れが悪い。

「ライブハウスに用があって」
「それ弾くのか?」

元秋は傍らのギターを顎で示して尋ねた。

「うん、まあそんなとこ」

或人はこの話題を避けたいようだった。
ストローをくわえて視線を逸らした。

「お前学校にいるときと違えな」

元秋は正直な感想を漏らした。
髪型が違うだけだが、今の或人に地味な印象はない。
学校では故意に優れた外見のレベルを落としているのだと思った。

「夏休みだから調子乗っちゃってんの!」

下手なごまかしは元秋には効果がなかった。
しかしこれ以上聞くのはやめておくことにする。

「アル」

三人の男達が或人に近付いて来た。

「鬼原、俺の友達来たから」
「ああ」
「俺を見たことは菖蒲さんには……」

唇に人差し指を当てて或人が言うのに頷いてやって、元秋は自分の友人のところに戻った。

「あれ友達?超イケメンじゃん、芸能人みたい」
「鳴鈴の生徒」
「まじか!鳴鈴の生徒ってあんなイケメンばっかなの?」

友人に言われて元秋は首を捻る。
鳴鈴は顔が良い生徒は多いが、飛び抜けているのは生徒会役員と未鷺、橋本爽太、そして或人だ。
同学年のことしか元秋は知らないが、学園で目立っているのはそのくらいだ。

「そうでもねえよ」
「俺あの人知ってる。元カノが好きだったインディーズバンドのギタボだよ」

もう一人の友人が小さい声で言った。
バンドのボーカル。
学園での地味な或人からは想像出来ない響きだ。
視線をそちらにやると、或人が友達だと言った三人はそれぞれ楽器のようなものを背負っている。
あれはバンドのメンバーなのかもしれない。

「歌上手くてギター弾けて金持ちで優等生でイケメンなんだな。絶対モテるだろ」

友人が呟くのを元秋は眉をひそめながら聞いていた。
全てを持っているかに見える或人が手に入れられないものを、元秋は知っていた。

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