[携帯モード] [URL送信]
踏んだり蹴ったり


元秋は学業特待生でAクラスである。
学園の人気者や親衛隊隊長など、目立つ生徒がいない地味クラスだ。

その中で大柄な元秋は最も目立っていると言える。
強面に恐れをなして話しかけてくるクラスメイトはほとんどいないが、隣の席の早川裕二(はやかわゆうじ)だけは違った。

「おっはよー、鬼原。今日も悪人顔だね」
「朝からテンション高えな」

小柄で小動物を思わせる裕二はどこを気に入ったのか元秋に懐いていた。
それにしても今日は一段と元気である。

「いやー、昨日素晴らしいことが起こってね!聞きたい?」
「いや」
「そうか聞きたいか!じゃあ教えてあげる!」

目を輝かせた裕二はじゃーんと特殊音付きでA4サイズの写真を見せてきた。

「これ、菖蒲か?」

元秋は写真を見た途端眉間に皺を寄せる。
あまりの迫力に、クラスメイトが「ひぃ!」と後ずさった。

未鷺が生徒会長の靖幸に肩を掴まれている写真だった。
無表情に見えるが、未鷺の細かな感情を汲み取ろうとしている元秋には、未鷺が嫌がっているのがわかった。

「そう!菖蒲未鷺姫!そして竜ヶ崎靖幸様!お二人は絵になるなー」
「それどこで撮ったんだよ」
「会議室だよ。昨日の委員長会議で俺んところの委員長が撮ってくれたんだよね」

うっとりと写真を眺めながら裕二が言う。

「それでなんでお前が喜んでんだ……」

呆れながら元秋が尋ねと、裕二はきょとんとした。

「え、まさか鬼原知らない?俺は『竜ヶ崎靖幸様×菖蒲未鷺様を応援する会』の幹部だよ?!」
「会の存在すら知らなかった。なんだよそれ」

内心で苛立った元秋だったが、裕二に怒っても仕方ないし、自分と未鷺が関係していることを知られるわけにはいかない。
冷静に問い掛けた。

「鬼原は情報が遅いなあ。鳴鈴学園抱かれたい男ナンバーワンの竜ヶ崎靖幸様と抱きたい男ナンバーワンの菖蒲未鷺様が恋人同士になるように応援するファンクラブだよ!」
「なんだそのランキング……」
「あれれ?!鬼原もしかして学園新聞読んでないの?俺達が一生懸命作ってる新聞を!」

裕二は新聞委員なのだ。
この学園の異常性は理解していたつもりだったが、元秋は頭が痛くなるのを感じた。

「いいから話続けろよ」
「あっ、そうそう。竜ヶ崎様はたくさんセフレがいるけど、本当に愛してるのは菖蒲様だけなの。そんで菖蒲様は竜ヶ崎様が好きなのに素直になれなくて、こうして避けてしまうツンデレなのね。でもいつか竜ヶ崎様に純潔を捧げようと処女を守ってるの」
「って、お前らが決めたのか」
「一部脚色があるけど事実をもとにしてるよ!お二人は幼なじみだし、中等部ではお二人で生徒会をきりもりしたんだから」

今日はやたらと鬼原突っ掛かってくるなあ、と裕二は唇を尖らせた。

(次へ#)
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!