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夜間外出


『はーい、ミサちゃん?』

電話の向こうから聞こえる気の抜けた声に、未鷺はほっと息をつく。

「はい。メールの返信が遅くなりすみません。今お電話大丈夫ですか」
『全然平気ー。相変わらずの真面目なミサちゃんで感動しちゃうなー。元気にしてた?』
「……はい」

アスカが小さく笑った声がする。

『それは元気なときの声じゃないね。何かあった?』

優しく尋ねられると未鷺は口ごもってしまう。
アスカの感性は鋭い。

『今どこにいるの?』
「家です」
『住所教えて?』

無邪気な声で言われ、未鷺は戸惑う。

「どうしてですか」
『え?興味だよー。年賀状書くかもしれないし』

そんなはずはないとわかりながら、未鷺が住所を教えると、アスカは少し興奮したようだった。

『まじで?うちから結構近いんだけど。バイクで20分で行ける。ってことで今から行くね』
「今から……」
『20分したら家の前に出てねー。あ、何か予定あった?』
「……ありませんが」
『良かったー。後でね』

軽い口調に流されているうちにアスカが家の前に来ることは決定したようだった。

少し待ってから未鷺が玄関を出ようとすると、使用人が慌てて駆け寄って来る。

「未鷺様お出かけですか?お車を――」
「必要ない」
「どなたかとご一緒ですか?日鷹様には何とお伝えすれば」
「兄は仕事で忙しい。何も伝えなくて良い」

しかし、と食い下がる使用人を一瞥し、未鷺はドアノブを捻った。

「俺が出たのを見なかったことにしてほしい」

未鷺なりの配慮に気付いた使用人は口を噤んだ。
それを気配で察した未鷺は家の外に出た。
もうすぐ電話から20分経つ。





「ミサちゃーん、やっほー」

菖蒲の家の外壁に背中を預けたアスカは未鷺にへらへらと手を振った。
未鷺は人の美醜にこだわりはないが、アスカのことは素直にかっこいいと思っている。
バイクの脇でヘルメットを被って立っている彼は大人びて見えた。

「あ、この子かっこいいでしょ。俺がデザインしたとこもあんのね」

未鷺の視線がバイクに向いたことに気付くとアスカは楽しげにバイクを撫でた。
それは奇抜なようで背景に馴染む色合いだった。

「さて、どこ行こっか」

未鷺の頭にヘルメットを被せながらアスカは言う。

「バイクで、ですか」
「大丈夫。俺無事故無違反だから」

笑顔でアスカは長袖のシャツを未鷺に渡した。

「風で冷えるかもしれないから羽織ってね」




未鷺は流されるようにバイクのアスカの後ろに跨がっていた。
初めての経験に心臓が跳ねる。

「どこ行こっかなー。ミサちゃん行きたいところある?」
「……思いつきません」

そっかー、と首を捻ったかと思うと、アスカはエンジンをかけていた。

「まあいっか」

アスカは振り向いて笑った。

「ミサちゃんとならどこへでも」

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