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暗い森


「そっちに行きたくない」

会場から出ちゃいけないって母が、と言う未鷺の手首を掴んで少年は歩き続けた。
日は沈みかけていて、パーティー会場の明かりから離れるのが恐ろしかった。

「手、放して」

頼むと余計に強く手首を握られる。
転ばないように、早足で進む少年について行くしかなかった。

暗い森に入った。
木々に月光を遮られたそこは一段と深い闇だった。

「嫌だ、靖幸君」





まだ靖幸と会って間もない頃だった。
パーティーの最中で子供同士で遊んでいなさい、と大人達に言われ、未鷺と靖幸は顔を合わせた。

パーティーの主催者の家は広大な庭があり、嫌がる未鷺を靖幸はひたすら連れ回した。

いなくなった二人に気付いた大人達が散々探し回り、最初に見つけたのは高校生だった日鷹だった。

「靖幸君は嫌だ」

と未鷺が日鷹にしがみつけば、優しく頭を撫でられた。

「大丈夫、お兄ちゃんが近づかせないようにするから」

そしてその約束はしばらくの間果たされ、未鷺が鳴鈴学園中等部に入学するまで靖幸と関わることはなかった。

そんなことを思い出しながら未鷺はベッドに横になったが、墓参りのため朝から切りっ放しになっていた携帯を思い出して座り直す。

『受信メール1件』

ほとんど連絡先を教えることのない未鷺にとって、風紀委員関連以外のメールは珍しかった。
元秋だろうか、と思いながら開けば、アスカからだった。

『ミサちゃん元気?俺はミサちゃんに会えなくてさびしいよ(ノ_・。)』

午前中に送られていたメールだった。
アスカの存在は未鷺に張り詰めていたものが解けるような安心感を与える。
もう夜と言って良い時間なのでメールを返しても良いかどうか悩みながら返信を作ったが、何を書けば良いのかわからなくなる。
もう一度時計を見て失礼な時間ではないことを確認してからアスカに電話をかけた。

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