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わがまま

「二年前にこの辺で高校生が狙われた傷害事件が何件もあった。その犯人が俺って噂が流れたんだよ」

苦々しい顔で元秋は語る。

「そのせいで家に警察が来たり、鳴鈴の前に通ってた高校で停学にされた」
「お前は何も……」
「してねえ。売られた喧嘩は買ったが事件の犯人みたいに武器を使ったりはしねえよ」

未鷺も元秋がそんなことをするはずがないとよくわかっていた。

「そのせいで小学校にあがりたての冬歌がいろいろ言われんのが嫌で、優等生だらけって評判の鳴鈴に入るために猛勉強したんだよ。俺が寮に入っても傷害事件が続いたから疑いがとけた」
「犯人は捕まらなかったのか」
「らしいな」

頷いた元秋は布団を敷き終わると横になった。
未鷺は眉をひそめて立ち尽くす。

「お前がそんな顔すんなよ。結果的にお前に会えたんだしな」

ぽんぽんと自分の隣の布団を叩いて、お前も寝ろよ、と元秋は示す。
憮然とした表情のまま布団に横になった未鷺は元秋の頭に手を伸ばした。
そのまま指先で元秋の髪をとくように撫でる。

「何だ、普段と逆だな」

元秋は自嘲するように言いながら未鷺の好きなようにさせていた。
布団に寝転がり向かい合って、二人はしばらくそのままでいた。

未鷺の手が止まったとき、元秋はその身体を引き寄せ唇を重ねた。
無言で目を閉じた未鷺の腕が元秋の広い背中に縋る。
元秋の舌にゆっくりと歯列を辿られ、うっすらと口を開く。
未鷺は初めてのこの体験に不思議と嫌悪感はなく、口内に侵入してくる舌を受け入れた。

「……っん」

ぴちゃぴちゃと唾液が絡まる音がする。
深い口づけはそれでも優しく、未鷺を気遣うようだった。

未鷺は、リップ音と共に唇が離れたとき、名残惜しさを感じた自分に驚いた。
赤らみそうな顔に気付いて元秋の肩に顔を寄せれば、抱きしめられる。

「……勃つぞ」
「自分でどうにかしろ」

だけど今はもう少しこうしていて、と。
我儘なのを承知で未鷺が囁けば、その通りにしてくれる逞しい腕。

ずっとこのままでいられたらと思った。

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