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いつか


元秋の部屋は学習机とタンスが置かれているだけの小さな部屋だった。

「狭えけど布団二組ここに敷いて寝るからな」

未鷺は頷いた。
元秋と畳の匂いがするこの部屋が好きになった。

「わたしもここで寝ちゃ駄目?」

冬歌が未鷺のシャツの裾を引っ張りながら尋ねた。
未鷺は助けを求めるような目で元秋を見る。

「冬は駄目だ。俺と未鷺二人でやることがあるから、なあ?」

未鷺の腰を引き寄せ元秋が言った。
妹の前で何を、と未鷺が抗議の目を向けても、元秋は気にした様子はなかった。

「お兄ちゃんと未鷺君って恋人同士なの?」

純粋な瞳で冬歌が尋ねた。
目を白黒させる未鷺の横で、元秋ははっきりと頷いた。

「ああ。だけどまだ親父と母さんには秘密な」
「うん、わかった」

素直に答える冬歌にも未鷺は驚く。
二人でごゆっくりー、と冬歌が部屋を出て行くと、未鷺は元秋の腕を揺さぶった。

「子供になんてことを……!」
「いつかバレるんだから別にいいだろ」

平然と元秋は続ける。

「少しずつでも周りに理解された方がいいだろ。俺はこの先お前から離れる気ねえし」

未鷺は恥ずかしくて言葉を返すことが出来なかった。
それでも心には羞恥より喜びが溢れていた。

これから先も元秋が近くにいてくれたらどれほど良いだろう。

そして逆に、元秋が遠くに行ってしまったら自分はどうなってしまうのだろうか。

「未鷺君と元秋、冷たいお茶どうぞー」

居間から映子が呼ぶ声がして、未鷺は不安を追いやった。
今は楽しみを満喫しよう。
そう思っている間に、浮かんだ不安など忘れてしまっていた。





その後は冬歌に誘われ、元秋と三人で外で水鉄砲をして遊んだ。
冬歌と未鷺が共謀して元秋を狙ってばかりいたら、元秋がバケツの水をかけて応酬してきたため、三人共ずぶ濡れになった。
未鷺は一日分の着替えしか持って来なかったため、元秋の中学生時代のジャージを借りて過ごすことになった。

夕食の食材をスーパーに買いに行ったり、夜は花火をしたり、未鷺には新鮮な経験ばかりだった。

「今日は楽しかった」

元秋の部屋に布団を敷きながら未鷺は目を輝かせて話す。

「良かったな……それ布団裏表逆」

笑って返しながら元秋は直してやった。

「俺もこのようなところに住んでみたくなった」
「いいことばかりじゃねえぞ。すぐ噂が広まるしめんどくせえご近所付き合いとかあるしな」

元秋が苦笑しながら言った。
未鷺は作業する手を止め、元秋をじっと見つめる。

「何かあったのか」
「……まあな」

元秋は曖昧に言葉を濁すが、未鷺の視線に負けて再度口を開く。

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