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家庭


「ご家族はいらっしゃるのか」
「ああ。今日は仕事も休みで家にいる。お前に会いたいって言ってたぞ」

鳴鈴学園の生徒を家に連れて来るのは始めてだからな、と元秋は続けた。

「……本当は親と冬歌で泊まりがけの旅行に行ってくれたら良かったんだけどよ」
「それではお前の妹を見れないだろう」
「まあな、でもお前を家に泊まらせといて何も出来ねえっつうのはな」

何も出来ないとは何だ、と聞こうとして口を開きかけてから未鷺は元秋の言おうとしたことを理解した。

「……ご在宅で良かった」
「また今度だな」

にやっと笑う元秋を未鷺は無言で睨み付けた。





アパートの角部屋にある鬼原家に着いた未鷺は大歓迎を受けた。

「未鷺君いらっしゃい、元秋の母です。映子(えいこ)さんって呼んでね」
「わたしのことは冬ちゃんでいいよ」
「俺のことはパパって呼んでいいからな」
「気色悪いぞジジイ」

映子、冬歌、元秋の父の譲(ゆずる)、元秋の順で喋られ、居間で正座した未鷺はぱちぱちと瞬く。

「ほら、未鷺が困ってんだろ!」
「いえ。今日はお世話になります」

良かったらどうぞ、と未鷺は高級洋菓子店の名がついた箱を差し出す。

「こちらこそ。来てくれてありがとう。お家の方にもよろしく言っといてね」

映子が受け取るのを見計らって、元秋は未鷺の荷物を持った。

「俺の部屋に荷物置くぞ」

未鷺は奥の部屋に行く元秋について行った。
このようなアパートの部屋に入ったことがなかったので新鮮な気持ちだ。
後ろをちょこちょこと冬歌が続いた。

「ねえねえ未鷺君綺麗だね」

にこにこと言う冬歌に驚いた未鷺だったが、微笑んで言い返す。

「冬ちゃんは可愛い。少しだけ元秋に似ているが」

言ってから、元秋に似ているというのは女子にとって褒め言葉なのだろうか、と未鷺は首を傾げる。

「お兄ちゃんとわたしはそっくりなんだよ!」

当たり前のように冬歌は答えた。

「……そうだな」

未鷺が頷いたところで元秋が部屋から顔を出した。

「お前ら何話してんだ?」
「べっつにー?」

冬歌はスキップで元秋の部屋に入って行く。

「秘密だ」

唇に人差し指を当てて笑い、未鷺も冬歌に続いた。

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あきゅろす。
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