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ポジティブシンキング


8月初旬、元秋は自宅から駅までの道のりを歩いていた。

元秋の自宅は団地の一角にある。
駅が近いのだけが我が家の取り柄だと思っている元秋は、未鷺との待ち合わせに駅を設定した。

未鷺は住所さえ教えてくれたら家の前まで車で行く、と言ったが、この団地では高級車が通っただけで野次馬が沸くだろう。
それに未鷺と待ち合わせて家まで歩くのもまた良い。

気付けば元秋は時間よりかなり早めに出ていた。
さすがに俺が先に着くだろ、と思いながら歩いていたら、小さな駅の駐車場に似合わない何やら長い車を発見した。

運転手が後部席のドアを開けると優雅に未鷺が降りて来る。
決して人が多いとは言えない駅前の空気がざわついた。

太陽の下で見る未鷺は一際白くて儚げに見える。
何か高級なものが入ってそうな箱を揺らさないようにしながら未鷺は駆け寄って来た。

「待たせたか」
「今来たんだよ」

このやりとりって恋人同士のあれじゃねえか、と元秋は思わずにやける。
未鷺は照れたように頬を緩めて元秋の隣に並んだ。

「鬼原は日焼けしたな」
「ああ、中学んときの友達と海行ったんだよ」
「そうか」

途端に未鷺の視線が淋しげになったのを元秋は見抜く。

「来年でもいいから一緒に行こうぜ」
「ああ」

何気なく元秋が言うと未鷺は小さく頷いた。




高級車が通るのも未鷺が通るのも同じようなものだったかもしれない、と元秋は思った。
老若男女問わずすれ違う人は全て元秋と未鷺を凝視して行く。

未鷺は慣れているのか相変わらず気にした様子もない。

しかし小学校低学年くらいの少年が走って来て二人をじっと見て来たときはさすがに足を止めた。

「ヤクザが美人と歩いてるぞー!」

大声で言いながら友達の方に走って行く少年を元秋は睨んだ。

「あのクソガキ……」

眉を寄せる元秋を未鷺はぽかんとした顔で見つめる。

元秋は舌打ちしつつ空を仰いで横目で未鷺を見た。
二人で歩く自分達はどう見えるかと考えていたのだが――

「まあ、一応は恋人同士に見えたってことだろ」
「……馬鹿者」

未鷺はふいと赤い顔を逸らした。

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