約束
今日は元秋が久しぶりに未鷺と過ごす休日だ。
宿泊学習から帰ってからも未鷺は忙しく、野原が元秋に張り付いていたのもあり、なかなか会うことも出来なかった。
今日と明日はその野原が生徒会御一行と街で遊んで来るため、未鷺が元秋の部屋に来ていた。
これはチャンスだな、今日こそ押し倒して、などと考えながら用を足した元秋が個室に戻ると、未鷺が机の前で難しい顔をしていた。
「何見てんだ?」
未鷺の横に並んでみると、おぞましいものを見るような目で見られた。
「ああ、それか」
元秋は机の上にある少女の写真を見て微笑んだ。
その様子を見て未鷺は後退る。
「お前にそんな趣味が……」
「あ?何考えてんだよ。これ妹だ。今8歳なんだよ」
「これがお前の妹のはずがないだろう……。全く似てない」
未鷺は写真の少女と元秋を見比べて眉間に皺を寄せた。
「結構似てるって言われるぜ」
「よくもその顔で……」
「うるせえ」
写真の少女、鬼原冬歌(きはらふゆか)は正真正銘元秋の妹だったが、強面のかけらもなく可愛らしかった。
未鷺はまだ疑っているようである。
「お前だって兄貴と似てねえだろ」
「俺と兄はそっくりだと思うが」
お前だって人のこと言えないじゃねえか、と思いつつ元秋は良いことを思いつく。
「じゃあお前、夏休みにうち来いよ。妹の実物見せてやっから」
「鬼原のうち……?」
未鷺は瞬きして不思議そうにしている。
元秋はそんなに妙なことを言った覚えがない。
「夏休みに友達んちに泊まるなんて普通だろ」
「……そうか」
腕組みした未鷺は考え込むようにしてから口を開く。
「習い事などの予定が入っているが一泊ぐらいなら調整出来るかもしれない」
「お前そんなハードスケジュールなのかよ。まあ俺んちはいつでもいいぜ」
それを聞いた未鷺は微かに笑った。
「早く夏休みになれば良いな」
何可愛いこと言ってんだ、と元秋は未鷺を抱きしめた。
暑い、放せ、と暴れる未鷺が静かになるまで抱擁は続いた。
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