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大嫌い


消灯前の見回りが早めに終えた元秋は未鷺の携帯を眺めながらタイミングを計っていた。

隣のベッドには布団に潜った又出がいる。
未鷺への嫌がらせの犯人はこいつだろうとわかってはいるものの、まだ証拠が得られた訳ではない。
未鷺の携帯に届いたメールは丁寧にサブアドレスから送られてきていた。

元秋がどうすべきか考えていると部屋のチャイムが鳴った。
消灯時間が迫る今、部屋の移動は風紀違反だろう。

ドアを開けると或人が立っていた。

「あっぶねー。巡回してる菖蒲さん達と遭遇するとこだった」

慌てた様子で部屋に入って来た或人に、元秋は無言で未鷺の携帯の画面を見せた。
『裏切り者め』とだけ書かれた例のメールだ。

或人は画面を凝視した後、又出のいるベッドにずかずかと歩み寄り、彼が包まれた布団の塊を蹴り上げた。

「又出、出て来いよ」

低い声で言って容赦なく何度も蹴りを入れる或人に、元秋は顔をしかめる。
ますます或人のことがわからなくなった。

もぞもぞと顔を出す又出の襟元をひっ掴み、或人は残りの手を差し出した。

「携帯貸して」

戸惑った様子の又出にもう一度「貸して」と或人は強く言う。
又出は恐る恐る携帯を差し出した。
操作中だったそれにはロックがかかっていない。

「まだ待ち受け菖蒲さんだったんだ」

嘲笑うように言う或人に、又出は俯く。

「どういうことだ」
「又出は菖蒲さんの親衛隊に入ってたことがあるんだよ。去年の途中まで。だけど穏健派なうちのやり方が気に食わなくて辞めた」

尋ねる元秋に答えながら或人は又出の携帯を弄る。

「穏健派とか言ってるから未鷺が静谷なんかに汚されたんだ」

又出が長い前髪の中から或人を睨んだ。
それを見下ろした或人の目は暗い。

「お前みたいなクズは菖蒲さんのこと呼び捨てしないでね!」

或人は又出の頭を壁にたたき付けるようにして襟元を掴んでいた手を放した。

「菖蒲さんのアドレス登録されてる。鬼原、嫌がらせメールに返信してみて」
「ああ」

元秋がメールを送るとすぐ又出の携帯が受信を知らせる画面になった。

「決まりかな。この写真もお前なんだろ」

或人は数枚の写真を又出の布団の上に広げた。
どれも盗撮されたらしい未鷺の写真に赤いペンで書かれた『裏切り者』『犯してやる』などの字が踊る。

「菖蒲さんへの嫌がらせで机の中とか郵便受けに入れてたみたいだけど、風紀委員と親衛隊が先に発見して保管してたんだ。菖蒲さんと同じクラスじゃないと撮れないような写真ばかりだから、最初からお前を疑ってたんだよ」

言われた又出はぎりぎりと歯を鳴らした。

「未鷺は俺達を騙してたんだ。清純なふりしてすましやがって裏では静谷とやりまくりだったんだ。許せない、許せない……」

早口で捲し立てて拳を震わせる又出を或人は冷たい目で見る。

「俺は人が自分の思い通りに動かないからって勝手に失望する奴が大嫌いなの。学園に帰ったら早めに退学届け書けよ。そうしないと俺何するかわかんないから」

携帯を又出に投げ付けると、或人は部屋を出て行った。
放心状態の又出と同じ部屋にいるのも不快で、元秋も或人に続いた。

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