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下見


少し不貞腐れた後、空のグラスを持って会場に戻った元秋は何か腹に入れようとうろつく。

しかし、誰かに足を引っ掛けられて転んだらしい野原がぎゃんぎゃん言っているのを見たら食欲も失せた。
会場から逃げる道を選ぶ。

自然に足が向いた地下には運動場があった。
明かりはついていないが廊下から差し込む光で場内は見渡せる。
中には誰もいない。

バスケットボールのゴールを見つけて、カゴに詰まれたボールを手に取る。
何回かドリブルし、数メートル離れたゴールに向かって軽く投げる。
リングの上を滑ったボールはゴールに入った。

元秋が地面を打つボールを取りに行こうとした時、背後からボールが放たれた。
綺麗な軌道を描いたボールはゴールに吸い込まれて行く。

振り向くと、金髪で彫りの深い男がシュートを放ったフォームを緩めていくところだった。

「……竜ヶ崎」

面と向かって元秋が靖幸を呼ぶのは初めてだった。
未鷺が嫌う、学園の帝王。

「鬼原元秋か」

靖幸の声音に疑問詞はなかった。
元秋のことをはっかり認識している口ぶりだ。

「生徒会長様がこんなとこで何してんだよ」

ファンが上で待ってるだろ、と元秋は靖幸を睨んだ。

「下見だ」

怯む様子もなく靖幸は答えた。

「下見……?」

元秋は眉間に深く皺を寄せた。
靖幸が下見する対象は、この運動場かあるいは。

「ああ。だが、もう用は済んだ」

低く艶のある声で言うと靖幸は踵を返した。
ゆったりとした動作で出て行った靖幸を目で追ってから、元秋は舌打ちする。

「ボールくらい片付けろってんだよ」

そう毒づいて、元秋はカゴにボールを投げ入れた。

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