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ボーイズトーク


未鷺は頬を僅かに赤らめながらも無表情でパーティー会場に戻った。
未鷺の手が空いていることに気付いたウェイターがグラスを差し出してくるのを受け取り礼を言う。

「菖蒲さん」

険しい表情をしたみちるが近付いて来て、自分のグラスを未鷺のグラスに押し付けた。

「恋敵の僕らに乾杯」

みちるが不敵に微笑むのを未鷺は訳がわからない気持ちで凝視した。
こいがたき、という言葉を反芻してはっとする。

「……聞いていたのか」
「鬼原といたかったのに菖蒲さんと一緒にいたから追いかけたんだよね。あんまり良く聞こえなかったんだけど、付き合ってるの?」

会場が賑わっているとはいえ、普通の声量で話されては困る。
未鷺は一口ジュースを飲むと、グラスをサイドテーブルに乗せてみちるを見た。

「場所をかえたい」
「いいよ。じゃあ僕の部屋で話そ」

パーティーを楽しむ暇はなさそうだ。




「座って」

みちるに勧められた通り隣合ったベッドの片方に座る。
向かい合うように座ったみちると目が合って、妙な緊張感を覚えた。

「鬼原と付き合っていない」

未鷺は再び質問される前に答えた。

「本当に?菖蒲さんは鬼原のこと好きじゃないの?」

みちるが身を乗り出して聞いてくる。
『ああ』と答えれば済むはずなのに、未鷺はそう答えることが出来なかった。
元秋が人のものになってしまうのはとても恐ろしかった。
未鷺は恐る恐る口を開く。

「俺は男を好きになったことがない……だが、鬼原のことは、気になっている」

こうして他人に元秋への思いを打ち明けることになるとは思わなかった。
顔に熱が集まってくるのがわかる。
未鷺は少し涙目になりながらちらりとみちるの様子を伺う。

「……菖蒲さんその顔ずるい。むかつく」

呆れたような声でみちるは言い、右手を差し出してきた。

「でもこれで僕たち正式にライバルだね」

そうなのか、と首を傾げながら未鷺はみちるの手を握った。

「まあ僕が一歩リードかなー。僕は去年鬼原とヤってるもんね。菖蒲さんシたことないんでしょ」

慣れない会話に未鷺の頭はついていけない。
それでも本来の負けず嫌いから言い返す。

「鬼原はそれでも俺が好きだと言う」
「あのねー好きな人はかわるけど性欲はかわんないんだよ。その点僕と鬼原は体の相性が抜群!鬼原のはおっきいから処女の菖蒲さんには荷が重いんじゃない?」
「よく恥ずかしげもなくそんなことを……」

聞いている未鷺の方が恥ずかしくて布団を被って隠れたくなった。

「菖蒲さんって純粋なんだね」

鼻で笑うみちるを赤い顔で睨むと未鷺は立ち上がった。

「どこ行くの?」
「パーティー会場で風紀委員補助に礼を言ってくる」

立ちくらみに襲われながら未鷺は答えた。
早く頭を冷やしたいと思った。

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