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交換


さらさらとノートに英文を書いていた未鷺の手は教師の「休憩時間に入ります」というアナウンスで止まった。

元秋が携帯を交換したいと言っていたな、と思い出して黒い携帯を机の上に置く。
あれから知らないアドレスからのメールの返信はなかった。

「こんにちは、未鷺君」

ぼんやり携帯を眺めていると、真面目そうな青年が机の反対側に頬杖をついてにこやかに話しかけてきた。

「……こんにちは」

未鷺はこの青年が学園を卒業し、高校生の自習を手伝いに来た大学生だと知っている。

しかし未鷺は特に彼に用はなかったので、寄って来られても困った。

「自習お疲れ様。進路はもう決まってる?」
「いえ」
「そろそろ考えた方がいいよ。良かったら相談に乗るけど」

良かったら、と言いながらも動く気がなさそうな大学生相手に、どうしようかと眉を寄せる。

「結構です」

ならば自分が動こうと未鷺が立ち上がると、彼は正面に回って来た。

「それなら勉強の息抜きに週末東京に出ておいでよ。美味しい店連れてってあげるし」
「……」

しつこい。
未鷺は一応先輩相手だと我慢していたが、強く拒否するべきかと思い直し口を開きかけた。

その時、大学生の身体が横に揺れた。
机に手をついてバランスを保った彼は振り向いて呆然とする。

当たり屋よろしく現れた男が余りにも凶悪な顔をしていたのだ。

「あ?何見てんだよ」
「いや、別に……」

眉を寄せて大学生を見下すのは元秋だ。
端から見れば真面目な青年がヤクザに絡まれているようにしか見えないが、ここは仮にも教室だ。
近くの生徒達は巻き込まれないように離れていく。

未鷺は少しわくわくする気持ちでそれを眺めていた。

「別にじゃねえだろ?文句あんのか」
「……ありません」
「それならとっとと失せろよ」

大学生がすごすごと去るのを見送って、元秋は携帯を未鷺の机に置き、代わりに未鷺の携帯をポケットに入れた。
その自然な動作を黙って見ていた未鷺は、元秋がいなくなると椅子に腰を下ろした。

机上の黒くてボロボロの携帯を手に取って机に角を当て、片手でくるくると回す。
そうしたままぼうっと自習時間開始まで過ごした。

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